30.銀の月が照らし出す銀竜

 海の中でゆらゆらと光るのは、星に見える。アスティの説明だと、夜光魚という名前のお魚なんだって。食べられないけど綺麗だね。光を蓄えて、暗くなると光るみたい。僕にも出来たらいいのにな。そうしたら暗くても怖くない。アスティも僕を見つけやすいし。


「カイ」


 唇に触れるキスをもらう。僕ね、アスティの唇が重なるの大好き。すごくドキドキして気持ちよくなる。目を閉じて、触れたアスティの唇を追いかけた。離れようとするたびに、ちゅっと音を立てて近づく。数回繰り返して目を開けたら、空はもう明るくなっていた。


「うわぁ!」


「ふふっ、初めて見たのね。綺麗でしょう?」


 大きな銀月の真ん中に、黒い月が入ってる。それが左側にズレていって、また変な形の銀月が出来た。今度はさっきと反対で、明るくなる。海にいた光る魚は行方不明になって、遠くでたまに光るだけ。暗い夜じゃないと光って見えないのが残念だな。


 短い時間で月が消えて出てきた。テントの中だから分からなかったけど、外には人がいっぱい。テントから乗り出してきょろきょろしたら、さっき屋台をしてたおじさんがいた。テントに戻ってアスティに抱き着く。


「もう帰りましょうか」


「うん」


 アスティがテントを畳む間、僕はまた棒を掴む係をした。最後に棒を倒して、皮で包み直す。放り投げたカップも中に入れたよ。全部入ったのを確認して、アスティが魔法をかけた。これで飛んでる最中に中身が落ちないんだって。


「僕も入ってく?」


「カイは私の背中に乗るのよ、荷物じゃないわ」


 不思議、僕はお荷物じゃないの? アスティの言葉にふわふわしながら、箱の中に入った。周りを守ってた人にアスティが声を掛けたら、集まった人を追い払っている。ドラゴンになるアスティに踏まれないよう、注意しなきゃね。


 一瞬でドラゴンになったアスティは銀色で、空で光る月と同じ色。怖くなって「アスティ」と名を呼ぶ。さっき月が消えたみたいに、アスティも消えたら困る。不安を消すように、ドラゴンが空へ向かって吠えた。大きな声に、月も震えそう。


「さあ、行くわよ。カイ」


 出発した朝は屋敷の騎士さんが縛ってくれたけど、今回はアスティが魔法で紐を結ぶ。僕が入った箱を背中に乗せて、落ちないように魔法も掛けた。それから爪で荷物を掴んで、ふわりと舞い上がる。ばさばさと翼を動かさなくても、空に浮いて海に背を向けた。


「お気をつけて」


 声をかけてくれた人に手を振って、僕は空の旅を始める。来た時と違って、帰りは眠くなった。見える景色は暗くてよく分からないし、月の光だけじゃ見えない。朝使った毛布に包まる僕は、うとうとしながら手を伸ばした。アスティの鱗がひんやりしてる。


「アスティ、寒くない?」


「平気よ、カイはちゃんと毛布に入って。眠ければ寝ていてもいいわ」


「うん」


 でも頑張って起きてることにした。うとうとしちゃうけど、目蓋が落ちたらすぐ開く。だって、アスティが飛んでるのに、僕だけ休むのは狡いもの。

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