31.カイの大切なお仕事

 お屋敷に着いたアスティに抱っこされたところまで覚えてるけど、その先は分からない。眠ったのかな。起きたら朝になっていて、アスティの腕の中にいた。


「おはよう、カイ」


「おはよ……」


 この挨拶は慣れない。前は挨拶しても返してもらったことないし、おはようにおはようで返していいか迷っちゃう。でもアスティがいいよと言ったから、僕は挨拶をするの。何か言うたびに、アスティも侍女の人や騎士の人も僕を褒めてくれる。それが嬉しいから。ダメな子じゃないと思えた。


 朝ご飯はアスティのお膝で食べる。変じゃないかと尋ねたら、番はこれが普通なんだって。侍女の人も頷いてたから頷いた。アスティは嘘を吐いて僕を傷つけたりしないよ。そう信じてる。


「あーん」


 いつも通りご飯を食べさせてもらい、今日は僕もアスティの口に果物とパンを運んだ。番はお互いにご飯を食べさせ合って、仲良しを確認するの。教えてもらった通りに出来てるといいな。仕事用の服に着替えたアスティは、長い髪を後ろでひとつに結んだ。頭の上の方で結ぶと尻尾みたい。


「お仕事をしてくるわ。一緒にお昼ご飯を食べましょうね」


「うん、いってらっしゃい」


 お見送りの挨拶は大切な僕のお仕事だよ。アスティが安心してお仕事出来るように、左の頬にちゅっとして、右の頬も。それから最後に唇を優しく重ねる。鼻がぶつからないでキスできるように、アスティがわずかに横に首を傾けた。そっか、そうしたらぶつからないんだね。


「頑張るわ」


「うん、いい子で待ってる」


 僕がいい子だとアスティが喜ぶ。だからお部屋やお庭で遊んで待ってるの。今日はお天気がいいからお庭で花を摘む予定なんだ。そう話したら、楽しみにしてるって。摘んだら侍女の人に渡して、花瓶に飾ってもらわなくちゃ。


 午後はお昼寝とお勉強の時間が待ってる。お花を摘みに行けるのは朝だけだから、アスティを見送った僕は帽子をかぶってお庭へ出た。侍女の人や騎士の人がついてくる。これも慣れなくちゃいけないね。これからは僕が一人でどこかへ出かけることはないんだよ。


 こないだ午後のお勉強で聞いた。アスティは偉い人で、番の僕も大切にされる。だからいつもお手伝いしたり守る人がついてくるの。撒いたりしたらいけませんよ、と教えてもらったけど……巻いたら重くて歩けないのにね。変な先生だったな。


 しゃがんで赤い花を選ぶ。完全にお花が開いてるのよりも、半分くらいの方がいい。選んだら僕が切らないで、侍女の人にお願いするのが決まりだった。


「このお花がいいです」


「かしこまりました」


 微笑んだ侍女の人が確認しながら長く切る。後で花瓶に合わせて調整するんだよ。次は白いの、その先にある黄色いのも可愛い。いろいろと選んで、束になったお花を振り返ったらたくさんあって……困ったので侍女の人と騎士の人にも分けた。次から気を付けなくちゃ。


 お部屋で花瓶の前に座り、差し込んでいく。これも僕のお仕事で、綺麗に見えるように抜いたり刺したりするんだ。今日は黄色い長いお花に合わせて、周りを赤と白で包んだ。上手に出来たと思う。侍女の人も褒めてくれた。


 もうすぐお昼の時間、早くアスティにも見て欲しいな。

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