25.海に来たら食べなくちゃね

 海の水は冷たかった。うんと冷たいんじゃなくて、ひやっとするくらい。右手をアスティと繋いだまま、左手を伸ばして触る。アスティが一緒にしゃがんだ。青いスカートは肩まで繋がる長いタイプで、呼び方はワンピースだって。


「アスティ、可愛い服だね」


「うふふ、ありがとう。着替えて良かったわ」


 にこにこ笑うアスティは、本当に青いワンピースが好きなんだね。僕も嬉しくなる。僕も濃い青だから、お揃いみたい。ひたひたと近づいて来る波に触って、離れていくのを見ていたら……大きい波が来た。


「うわっ!」


「間に合わなかったわね」


 アスティが抱っこしてくれたけど、足の先が濡れちゃった。靴を濡らしちゃったね。脱いでればよかった。見ると、アスティの足は踝まで波に浸ってる。


「アスティ、濡れてる」


「平気よ、見ててごらんなさい」


 波が下がっていくと、アスティの足が砂の中から出てきた。靴の上部分が僕のと違う。紐やベルトみたいなので、靴の底を縛ったみたいな形だった。


「これ、靴なの?」


「サンダルというの。そうね、カイの靴が濡れたからサンダルを買いに行きましょうか」


 僕にもサンダルあるの? 凄いと声を上げて、仲良く手を繋いで歩いた。濡れた靴に砂が付くけど、手で払おうとしたら止められる。払ってもまた付いちゃうのかな。脱いだら綺麗に砂を払おうと決めて、僕はアスティを見上げた。


 僕を見て嬉しそう。アスティは僕といて退屈じゃないの? 綺麗じゃないし、何も知らないから聞いてばかり。イライラすると言われたことはあるけど、アスティはそう言わなかった。


「アスティ、退屈じゃない?」


「どうして? 可愛い私のカイと一緒なのよ。退屈する暇なんてないわ」


 嘘は言ってないよね。僕は何だか顔が赤くなって、下を向いた。アスティの足にも砂が付いてる。上に布がないサンダルだからだね。後で拭かせてもらおう。僕が出来るお返しはそのくらいだから。


 ふっと靴底から伝わる感触が硬くなった。まだ砂があるけど、歩きやすい。砂浜を出たら、広がっていたのは両側にお店がある道だった。石を並べて作られた道は歩きやすい。右も左もお店があって、いい匂いがしていた。


「ここでサンダルを買いましょう」


 アスティが僕を抱っこして、お店の奥に入った。テントみたいなお店は、いっぱいサンダルも靴もある。その中からアスティが選んだのは5つ、僕が1つ選んで……アスティは3つも買った。僕が選んだサンダルを履いて、店を出る。ペタペタするけど、靴より軽い。


「せっかく海まで来たんですもの、あれを食べなくちゃね」


 少ししょっぱい匂いがする方へ進み、アスティがお店に入っていく。振り返った先は、アスティが運んだ荷物が置きっぱなしだった。砂の上に置いたままで、なくなったりしないのかな。


「アスティ、荷物なくなっちゃう」


 あまり離れると危ないよ。そう言ったら、頭を撫でて抱っこされた。高くなると、砂の上にある荷物が良く見える。


「あの周りにいるのは、この国の兵士よ。荷物を守ってるの、それに魔法も掛けたから盗まれないわ」


 そんなすごい魔法があるの? 目を瞬かせ、食い入るように見たけど分からないや。アスティが言うなら嘘じゃないから安心だね。


「安心したなら、一緒に食べるわよ」


 並んで座ったのは、長細い机の前だった。机の向こう側は何かを焼いてるみたい。気になって首を伸ばした僕に、アスティが抱っこで見せてくれた。穴がいっぱい開いた網の上に、貝や魚が並んでる。ここ、暑いね。


「お任せで用意して頂戴」


 アスティの注文を聞いて、お店の人が笑顔で動き出した。何を頼んだんだろう、楽しみだな。

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