24.特別な関係だとデートするの
ドラゴンが珍しいのかな。人がたくさん集まってきた。銀色のアスティは綺麗だから、きっと近くで見たいんだと思う。僕は箱にしっかり捕まって、着陸に備えた。
白い砂がある場所に降りた。細かくて小さな粒がいっぱいで、箱から飛び降りようとしたら「まだよ」と止められる。首を傾げた僕をよそに、アスティは器用に魔法で僕の入った箱を下ろした。でも「いいよ」がないから待ってる。
荷物を置いたアスティが光って、人の姿に戻った。あれ? さっきとお洋服が違う。赤い線が入った白い服だったのに、今は青いスカート姿だ。
「着替えたの?」
「そうよ。カイと初めてのデートだもの」
デートは恋人同士が二人で出かける事。教えてもらって頷く。そっか、僕とアスティは恋人同士なんだね。ところで、恋人って何するの? お友達とは違うのかな。尋ねたら、お友達よりもっと親しくて特別な関係みたい。アスティと僕が特別? すごく嬉しい。
「竜女王陛下、お越しとは存じ上げず……っぷ」
駆けてきた大柄な男の人が、白い砂の上で転んだ。言葉が途中で切れて、ぺっと砂を吐いてる。食べちゃったの? 美味しくないんじゃないかな。僕も蹴られて土が口に入ったことあるけど、美味しくなかった。
顔を上げて隣をみれば、アスティが変な笑い方してる。困ったような顔で、でも笑ってる感じ。あの男の人が嫌なのかな。僕が追い払ってもいいよ。何回か殴られたら、満足していなくなると思う。
こっそり提案したら、そんなことしなくていいと言われた。強い口調と声だけど、僕に怒ってるわけじゃないって。今度は悲しそうな顔をしてる。僕、余計なこと言わなければよかった。しょんぼりしながら、男の人がたどり着くまで待った。
「竜女王陛下、お待たせいたしました。本日はどのようなご予定ですか? 王城へいらしていただければ、歓迎を……そちらの若君はどちらの」
「ご苦労。歓待は不要。この子に興味を示すことは許さない。理解したか?」
「は、はい。失礼いたします」
手をもじもじ擦り合わせながら、男の人は離れていった。見送って、本当にアスティは強いんだと感心する。殴られなくても、相手の人がいなくなったよ。でも僕が弱いと知ってるのか、じろじろ見られた。アスティの後ろに隠れたら、手を繋いでくれる。
「カイ、大丈夫よ。彼はもう近づいてこないわ」
「うん。じろじろ見るの、いけないよね」
「ええ、そうね……じろじろ……見たのなら対価を要求しなくちゃ」
難しい言葉は分からない。たいかをよーきゅー? 首を傾げた僕を抱き上げ、周りに集まった人を無視したアスティが海に近づいた。匂いがすごいする。
海の手前は砂になってて、大きな水溜まりは近づいたり離れたりした。縁の部分はまだ成長してるのかな。こっちに近づいて、でも戻ってく。
「これは波というの。海はいつも揺れているのよ」
「波……夜も動いてるの?」
「賢いわね、カイ。人が見てなくてもずっと、打ち寄せては戻っていくわ」
見てない時もちゃんと動いてるなんて、波は偉いんだね。アスティが持ってきた荷物は、皮で包んである。そこへ魔法をかけて、僕とアスティは海へ数歩近づいた。
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