20.贈り物の箱をいっぱい開けた

 柔らかなベッドで眠り、起きるとお水を飲む。濁った泥水じゃなくて、綺麗に透き通ったお水だよ。それに甘酸っぱい匂いがする果物が入っていた。ごくりと飲んで、もう一口。結局最後まで飲んでしまったけど、誰も叱る人がいない。


 僕に怒鳴ったり手を挙げる人がいないだけじゃなく、目が覚めると優しいアスティがいる。僕を好きと言ってくれた。抱き締めて、特別な唇のキスをする人。


 僕には宝物はなかったけど、もし今ならアスティが宝だと思う。他の物はなくなっても我慢できるけど、アスティがいないのは絶対に無理だから。


「一緒に贈り物を開けましょう。きっとカイが気に入る物があるわよ」


 アスティ以上の宝物はないけど、頷く。ベッドから降りたら、足が冷えないように室内用の靴を履く。後ろに踵を押さえる部分がなくて、お部屋専用なの。歩くとぺたぺたと音がした。


 柔らかい絨毯に、たくさんのクッションを並べて座る。侍女のお姉さん達が、お手伝いに来た。


「どれがいい?」


「分からない、どれがいいの?」


 同じことを聞き返すと殴られたりしたけど、アスティはしないから。分からないと素直に伝えた。にっこり笑ったアスティの指示で、上から順番に開ける。上は小さな箱が多くて、下は大きな箱ばっかり。中の物が違うのかな、それともたくさん量があるのかも。


 上の赤い箱のリボンを解いて、僕の前に置かれる。僕を膝に乗せたアスティを振り仰ぐと、にこにこと促された。


「開けてみて」


「うん!」


 僕ね、プレゼントの箱を開けるの初めて。お母さんがくれるときは箱じゃなかったし、他の人が開けてるのは見たことがあった。花模様の赤い箱を開けると、さらに箱が入ってる。外は紙の箱で、中は布の手触りの箱だった。


 開けると蓋が上で止まる。中にきらきらした鳥が入っていた。僕の手のひらくらいある鳥は、銀色で緑や黄色の石が埋められてる。目の色は赤だった。


「きれぇ」


「ブローチね。幸運を運ぶ鳥のモチーフだから、胸元や帽子につけても可愛いわ」


 ブローチは胸や帽子に着ける飾りと教えてもらった。箱にしまって渡すと、侍女さんが少し離れた机に置く。あとで纏めて片付けるんだね。次の箱は指輪、大きい青い粒の宝石が光ってる。


 そこからたくさんの宝石が続いて、小さな箱が終わった。小さな箱は全部宝石だったのかな。次はもう少し大きい箱、開けると帽子やバッグ、靴がいっぱい。


「これは私ので、こっちはカイのね」


 同じ色とデザインで、でも大きさが違うの。一緒に履いたら、仲良しみたいに見えるかな。どきどきしながら尋ねたら、一緒に履こうと約束がもらえた。帽子、スカーフ、靴、クッションや毛布、さまざまな物が並んだ。


「お店みたい」


「そうね。次はもっと大きな箱よ」


 侍女のお姉さんが開けて見せた箱は、お洋服が入っていた。小さい僕用がほとんどで、ときどきアスティとお揃いの箱もある。


「これ、広間にいた人達がくれたの?」


 頷くアスティが「竜族は番が見つかると、お互いに贈り物をする習慣がある」という話。今回は僕がもらった。だから別の誰かに番が見つかったら、今度はあげる側になるんだって。


「その時は一緒に選びましょうね」


 僕も一緒に選んでいいの? 嬉しくて笑顔になった。くしゃっと顔が歪んだけど、嫌いにならないでね。

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