呪われた国

呪われた国で唯一呪われていない少女のお話___


私が住んでいる国は呪われている。ううん違う。周りから見たら【私が呪われている。】

私が子供の頃赤い木の実を食べてから周りから『呪いの子』『可哀想な子』って言われるようになった。お母さんやお父さんも赤い木の実を食べて呪われたって街の人が言っていた。


私の家はお菓子屋さん。赤い木の実をいっぱい使った甘い香りがいつもしているお菓子屋さん。今日は自信作のパイを売りに行くの。ちょっぴり寒くなったけど街はきっと賑わっている。前は買って貰えなかったけど……今度こそ買ってもらうんだから。



時計塔が見える街。驚いた。今日はいつもより賑わっている!それを見た私は小さく「ラッキー……!」と呟いた。その後はいつも通り「赤い実のパイどうですか?」と赤い実のパイを売り始めた。でもやっぱり売れなくて。人々は私を蔑むように見てくる。そんな私の声は今日もまるで届かない。【まるで私が透明になったみたい……】そんな事を思いながら私は今日もパイを売る。



その日の夜、諦めずにアレンジパイを作ってまた街へ売りに行くの。時計塔の針も12時をさしてお腹も鳴るそんな時 ドンッ!と後ろから背を押された。その衝撃でパイが入った籠が落ちる。「ま……待って!やめて!」お菓子を踏み歩いていく人達に必死に声をかける。それでも人々は無視してお菓子を踏んでいく。ドロドロになったパイを拾い上げていればもう1人の手が伸びて徐ろに口に入れて『美味しいね』と言ってくれた。


その言葉だけで心が溢れた。やっと待ち焦がれていた言葉を聞けた。「ほ……ほんと?ほんとにほんと?」と私は彼に問いかけた。彼は笑みを浮かべこくりと頷いた。



赤い実のパイを食べた彼は街の人達から告げられた。『あぁ可哀想に』と。でも彼は笑顔を浮かべながら言ったの。「俺たちは可哀想なんかじゃないですよ」と。その言葉に私は目に涙をうかべた。


【例え……例え明日死んでも今が確かで。この今が大切になるから。】


私はまだパイを売るけれどやっぱり誰も買ってくれない。まるで私が透明になったみたい。

でも違った……私たち2人が呪われているんじゃなくて【この世界そのものが呪われているんだ】。


《永遠》という呪いはもう私たちにはない。街の人たちから見れば私たちは狂っているのだろう。でも今しかない。今しかない1回きりの人生だから。いつか笑うように眠るの。なぜなら私たち2人は呪いから放たれてるから。死んでしまったこの世界で幸せだったのは私たち2人だけ。

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