第5話 5階の攻防戦

 突入から20分、5階。


 5階の担当は篠崎陵と立川隼人。


 立川は千霊眼で5階の悪霊の数を確認している。


「うわ何だこの数、5階だけでも100体近くいるぞ、どうする陵?」


「どうするって、そんなもん片っ端から倒すしていくしか無いだろ」


 鬼灯グランドホテルは複雑な迷路になっており、至るところに悪霊たちが潜んでいる、中には気配を消し姿を隠している者もいるが、立川の千霊眼の前では隠れることはできない。


「隼人は指示しろ俺がやる」


「OK、無理はすんなよ」


 篠崎はこの日の為に準備していた武器を取り出す、一見普通のサバイバルナイフだが特殊な加工がされている特注品である、悪霊にダメージを与える事が出来る特別製である、ナイフの持ち手に自身のイニシャルが彫ってある、立川も同じ物を持っている。


 篠崎は立川の指示通り悪霊を次々とナイフで倒していく、奇襲攻撃を仕掛けてくる悪霊たちもいたが、立川の能力によって奇襲を防ぎ悪霊たちを倒していく。


 半分を倒しきったところで二人は休憩をする。


「結構疲れるな、後どのぐらいるんだ、隼人」


「丁度半分ぐらいかな、あれ!? 奴ら、俺たちを囲もうとしてるぜ、そんな頭脳あいつらにあんのか、もしかしたら指揮官みたいな奴がいるかもな」


「間違いなくいるだろうな、あんなザコばっかじゃこれだけの悪霊たちがここにいるはずかねぇ、それに事前情報ではここにはとんでもなく強いラスボスがいるって話じゃねぇか、そいつは見えないのか隼人?」


「見えねぇよ俺は霊や人は見ることはできるがそいつの強さまでは分からないだよ、そのぐらいお前も知っているだろ」


 千霊眼は千里眼と霊視が合わさったものであり、あくまでも霊や人、建物など遠くにある物を見ることが出きる能力であるため、相手の強さなどは見ることは出来ない。


「そろそろ来るぜ陵、次は俺もやるからな」


 立川は篠崎と同じナイフを取り出し戦闘態勢に入る。


 立川と篠崎の二人の前に無数の鎧武者が現れる、鎧の色は赤色で鎧武者は日本刀を帯刀しており、顔には般若の面をしている、中でも先頭にいる鎧武者は赤鬼の面しており他とは違うオーラを纏っておりその赤鬼の面した鎧武者が自身の回りにいる鎧武者たちにこもった声で指示を送る。


「やれお前ら」


 赤鬼の面をした鎧武者がそう言うと回りにいる鎧武者たちが刀を抜き、一斉に二人に襲いかかる。


 二人はナイフでなんとか応戦しているが数で圧倒され、立川が肩を斬られる。


「大丈夫か隼人!! くそ、一旦引くぞ!!」


 篠崎は負傷した立川を背負い、追撃をかわしながらその場を脱する。


 後を追おうとする鎧武者たちに赤鬼の面をした鎧武者が制止する。


「止まれ!! 一人は手負いだ、じっくり追い詰めれば良い」


 篠崎はしばらく立川を背負いながら走り続け、非常階段付近で隠れ、立川の傷口を止血し応急処置をする。


「すまねぇ陵、足手まといになっちまった」


「バカ言うな俺たちはコンビだろ、お前を足手まといになんて思ったこと一度もねぇよ、それにお前の力が無けりゃ、俺はとっくに死んでた、心配すんなよ、隼人は俺のサポートをしてくれれば良い、あんな奴ら二人で倒そうぜ」


 篠崎は右手の包帯を取り始める。


「陵まさか封神手を使うのか、やめろ、あの数を封印したら、体が持たねぇぞ」

 

 封神手とは、右手に宿っている力で対象に触れるだけで対象を地獄に封じ込めることが出来るが代償は大きく使う度に手や腕、体に激痛を伴う、相手の強さや封印した数によって支払う代償は大きいが触れれさえすれば神さえも封印してしまうことからこの名が付けられた。




「仕方無いだろ、このナイフ一本じゃあいつらには勝てない、やるしかねぇんだよ、俺はお前とここを生きて出たいんだ、あのときの約束忘れちゃいねぇよな、約束を果たすためなら俺はどんなリスクも背負う」


「もちろん忘れてねぇよ、俺たち二人で孤児院を作るってやつだろ、忘れるわけないだろ、昔俺たちの両親が悪霊に殺され二人になっちまった時に俺たちみたいな境遇の子供たちを保護したいって言ってたもんな」


 二人は幼い頃に悪霊に両親を殺され、同じ孤児院で少年時代を過ごした、その時二人はいつか孤児院を作り同じ境遇の子供たちを保護し、護っていきたいと約束した、そのために悪霊退治の依頼を受け、孤児院を作る費用を稼いでいた。




「じゃあやるか、隼人」


「あぁやろうぜ相棒」


 鎧武者たちがじりじりと距離を詰めてきて、二人のすぐ近くまで来ると、曲がり角で待ち伏せていた篠崎が鎧武者たちに飛び掛かり右手を甲冑に触れると、強烈な光と共に鎧武者を右手に吸い込み封印する、立川の指示で死角からの攻撃をかわしながら次々と封印していく、そして順調に鎧武者たちを封印していくと、赤鬼の面の鎧武者が指示を出す。


「お前らそいつに近付くな、距離を取って弓で応戦しろ」

 

 鎧武者たちは距離を取り、背中に装備してある弓を取り出し篠崎に向けて狙いを定める。


「放て!!」


 赤鬼の面の鎧武者の掛け声と共に、一斉に矢が放たれる。


 篠崎は軽快な動きで矢を避けるが、右肩と左足に命中するが、篠崎の動きは止まらず、距離を詰め、一体ずつ封印していく、そして一体を残してすべての鎧武者を封印することができた。


「まさかここまでやるとはな、だがこの俺はそう簡単にはやられんぞ」


 篠崎は自身に刺さった矢を抜き、赤鬼の面の鎧武者にかかってこいと言わんばかりに手招きをしている。


 赤鬼の面の鎧武者は刀を取り出し、篠崎に斬りかかる、篠崎は攻撃をかわしながら鬼の面の鎧武者に触れようとするが、読まれており、篠崎の攻撃もかわされる、高度なやり取りが続く中、背後から立川がナイフで赤鬼の面の鎧武者の腰を刺す。


「こんなもの効くか!! お前から殺してやろうか!!」


 立川に気を取られたその瞬間、篠崎が赤鬼の面の鎧武者の胸に右手が触れる、凄まじい光と共に右手に吸い込まれていく


「くそが!! こんな奴らに俺はやられるのか、申し訳ございません、リオン様!!」


赤鬼の面の鎧武者がそう叫ぶと封印されていった。


 篠崎は封印が終わると身体中にに激痛が走り叫び声をあげながらその場に倒れ込む、立川がすぐに近寄り、矢で射たれた箇所を止血して応急処置を行う。


「大丈夫か陵!!」


「大丈夫だ矢は急所を外れてるし、この体の痛みも時間が経てば良くなる筈だ、それより俺たちが突入してからどれぐらい経った?」



「よく分からねぇ、こういう場所に時計持ってきてもすぐ壊れるしな、でも一時間以上は経ってるんじゃね」



篠崎が隼人と会話している途中にホテルが大きく揺れる。


「なんだ今の揺れは、隼人、他の所はどうなってんだ!?


「とりあえずこの階には悪霊はいなくなった、あとは他の所だな、どれどれ今見てるからな………まじか!? 」


立川は千霊眼で回りの状況を確認しいる。


「どうした?」


篠崎は慌てた様子の立川に尋ねる、立川は言葉に詰まりながら答える。


「5人……死んだ」


 突入から1時間30分。


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