第46話

ヒトミの死体は夜中のうちに埋葬されることになった。



そこに参加しているのは僕と神主さんとユウジくんの3人だけだ。



村人が集まることもなく、葬儀の手順を踏むわけでもなく、ただ棺桶に入れられたヒトミの体。



それはいつの間にか腐敗が進んでいて、少し触れるだけでも皮膚が剥がれて落ちていく。



最初ヒトミが死んだときの死化粧の美しさは、この死体にはなかった。



「ごめんなヒトミ……」



ヒトミがこんな姿になってしまったのは自分の責任だ。



重たい自責の念が胸に絡みついて離れてくれない。



「大丈夫。君のせいじゃない」



神主さんがそう言って僕の肩に手を置いた。



触れられた場所が徐々に熱を持ち、そこから気持ちが軽くなっていく気がする。



けれど、それすら今の僕には許されない気がしてならなかった。



「ユウジくんも、よく勇気を出して私に話しにきてくれた」



ユウジくんは唇を引き結んで泣き続けている。



復活祭で悪知恵さえ働かせることがなければ、自分の姉はこんな姿になることはなかった。



2人共この結末を自分のせいだと思い、心の底から反省していた。



それからヒトミの体はようやく土の中に葬られた。



棺桶は固く閉ざされ、大量の土が被せられる。



それはまるで二度とこの世に出てこないようにと、強く願いが込められているようにも感じられた。



「まだ油断してはいけないよ。死者は無理やり蘇らせられたことを、怒っているかもしれないからね」



最後に、神主さんは静かな声でそう伝えたのだった。


☆☆☆


それから数日間は目も回るような忙しさだった。



両親の死体を放置するわけにはいかず、隣町から警察もやってきた。



しかし、事情を聞かれてもちゃんと説明することはできなかった。



蘇ってきた死者が殺したなんて、誰が言っても信用してくれないだろう。



そんな僕とユウジくんをみかねて、神主さんが警察にことの経緯を説明してくれた。



後から聞いた話しによると僕がユウジくんが出かけている間に何人組かの男たちが家に侵入し、2人を殺害したことにしてくれたらしい。



その惨劇をみた僕とユウジくんはまだ気が動転しており、説明できる状況ではないと言ってくれた。



警察官は神主さんの言葉を信用し、犯人探しを開始したらしい。



もちろん、その犯人は永遠に見つかることはないけれど、これでよかったのだと思えた。



「ユウジくんは、これからどうするんだい?」



事件が一通り片付いた翌朝、僕は大きな荷物を持って玄関先に立っていた。



「親戚の家に行くことにしたよ。隣町だからここからも近いし、学校も近くなるんだ」



ユウジくんは笑顔で答える。



しかしその笑顔にはやはり影が隠れていた。



僕もユウジくんも今回のことに関してはいつまでも苛まれるだろうという予感がしていた。



家族みんなを巻き込んで犠牲にして、それでも生き残ってしまった僕たち2人だ。



悩み苦しみ、ときには発狂しながらも今回のことをこの村に言い伝えていかないといけない。



それが、僕たちの義務だった。

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