第41話
夜の村を見回っていたという神主さんは快く僕らを家の中に通してくれた。
家の外観と違って室内は洋室しかなく、通された部屋には重厚感のある立派なソファと大理石のテーブルが置かれていた。
「それで、こんな夜にどうしたんですか?」
神主さんは袴姿のままで僕たちに紅茶を出してくれた。
だけどそれをのんびり飲んでいる暇はない。
こうしている間にもヒトミはなにをしでかしているのかわからないのだ。
僕はチラリと横に座っているユウジくんへ視線を向けた。
ここまで来たものの、神主さんに話す勇気はまだ持っていなかったようで、ジッとうつむいてしまっている。
その顔は真っ青で、とてもまかせておける状態ではなかった。
「実は、僕たちは大変なことをしてしまったんです」
僕はユウジくんに変わって話し始めた。
僕はこの村の人間ではないから、ユウジくんよりも冷静に説明をすることができる。
僕の話を聞くうちに神主さんの表情がこわばっていくのがわかった。
最初の優しそうな笑みは消えて口元が引き結ばれる。
「なんということを! あの花を盗んで自分たちの家に飾っただと!?」
途中まで話をしたところで憤慨し、勢いよく立ち上がる。
「それで蘇りのお守りまで貰って、池に行ったのか!?」
真っ赤になって怒鳴る神主さんに僕は切れ切れになりながら「そうです」と、返事をした。
ここまでの剣幕で怒鳴られるとは想像もしていなかった。
同時に、自分がどれだけのことをしでかしてしまったのか、脳天を殴られたような衝撃で理解した。
「それで、ヒトミちゃんは?」
「家にいます。家族が見張っています」
ようやくユウジくんは言葉を続けた。
その声はひどく震えていて、目には涙をためている。
「このままじゃまずいことになる。すぐに行こう」
神主さんの額には大粒の汗が浮かんでいたのだった。
☆☆☆
神社の裏手に回るとそこには大きな駐車場があり、その隅に止まっていた普通自動車に3人は乗り込んだ。
神主さんの少し乱暴な運転で家へと急ぐ。
「前にも同じことがあったんですか?」
助手席から話を投げかけると神主さんは重々しく頷いた。
「今から何百年も前のことになる。今回と同じようなことが起こったんだ。選ばれていない人間が蘇り、その人はどう見ても狂っていた。今のヒトミちゃんと同じ状態だ」
過去にそうして蘇った人は虫や人を喰らい、命を奪うことをなんとも思っていなかった。
時折生前を思い出したかのように振る舞うけれど、それも徐々に減っていく。
そして最終的にはこの村の半数の人間が、その人に殺されてしまったというのだ。
その時の犯人の顔はまるで鬼そのものになっていて、とても人間には見えなかったという言い伝えが残されている。
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