第39話

ヒトミの素行が悪化し始めてから、ユウジくんの元気はなくなっていた。



笑わなくなったし、夜もあまり眠れていないようだ。



自分のせいだと強く思い、反省しているのもわかる。



だけどそれじゃなにも解決しないのだ。



「そうか。それで、おばあちゃんはヒトミが無理やり蘇らされたことに気がついたんだな。虫を料理に使ったり、熱湯みたいに熱い風呂に入ったりしたからおかしいと思ったんだ」



ユウジくんは頷いた。



「でも、そういうことが起きるってことはわかっていたってことだ。つまり、前例があったってこと」



僕は力を込めて言った。



前例がなければ、無理やりよみがえらされた死者がどうなってしまうのか、知りようがないからだ。



「神社へ行って神主に話を聞く。もうそれしかない」



ユウジくんは一瞬ひるんだ表情を浮かべたけれど、しっかりと頷いた。



下手をすれば他にも犠牲者を出してしまうかもしれないんだ。



もう、自分たちのしたことがバレてしまうとか、そんなことを気にしている余裕はなかった。



「行こう」



外は暗闇に包まれていたけれど止まっている暇はなかった。



僕たちは2人で神社へ向かったのだった。


☆☆☆


夜の石段はいつも以上に急勾配で先が見えないものだった。



祖母はこんな危ない道をヒトミと共に上がっていこうとしていたのだ。



そこには孫に対する真っ直ぐな愛情を感じた。



ライトで照らしながら1段1段上がっていっていても、暗闇のせいか自分が上がっているのか下っているのかわからなくなってくる。



僕はなんどもライトで石段の下を照らして自分の位置を確認した。



「いろいろな声が聞こえてくる」



後ろをついてくるユウジくんが呟いた。



石段の左右を囲んでいる森からは野生動物の声が聞こえてくる。



時折夜起きている鳥たちが一斉に羽ばたいてこちらを驚かせることもあった。



「大丈夫だよ、熊よけの鈴を持っているから」



僕の腰には大ぶりな鈴がつけられていて、これは村に来てからヒトミが貸してくれたものだった。



あのときはまだ、この鈴が役立つときが来るなんて思ってもいなかったけれど……。



物悲しい気分になってきたとき、ようやく石段の上部が見えてきた。



境内は真っ暗で自分たちの歩く足音だけが聞こえてくる。



「あっちだ」



今度はユウジくんが先に立ち、神主さんの住居スペースへと足早に向かった。



お守り売り場の裏手に回ると明かりの灯っていない玄関があり、2人で顔を見合わせた。



窓からの明かりもなく、もしかしたら留守をしているのかもしれない



100年に1度の祭りも終わっているし、その可能性は高かった。



ユウジくんが一歩前に出て玄関チャイムを鳴らした。



家の中からピンポーンと音が聞こえてくる。



それでも誰かが出てくるような気配はなくて、もう1度鳴らす。

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