第38話
服?
一体どういう意味だ?
考えるより先に体が拒絶した。
突然吐き気がこみ上げてきてトイレにかけこむ。
さっきの肉は食べていないと言え、気持ち悪さがこみ上げてきた。
「なんてことをしてくれたんだ!」
少しマシな気分になってキッチンへ戻ると、父親のど号と母親の泣きじゃくる声が聞こえてきた。
「どうしたんです!?」
慌ててドアを開けて中へ入ると、テーブルの上にあった肉は床に散乱し、皿もグラスも割れていた。
「この肉は墓地から持ってきたって言うんだ」
父親が肩で呼吸をしながら説明する。
墓地から……?
僕は唖然としてヒトミを見つけた。
ヒトミはなぜ自分が怒られているのか理解していないようで、ボロボロと頬に涙を伝わせていた。
ユウジくんと母親は青ざめて、キッチンの隅にうずくまって震えている。
「墓地って、それって……」
「おばあちゃんの遺体を掘り起こしてきたんだ!」
僕の感じた嫌な予感は的中した。
さっきトイレに駆け込んだばかりなのにまた気分の悪さを感じる。
けれど今度はそれを押し込めてヒトミへ向き直った。
「どうして怒っているの? 今日は頑張って料理したのに」
鼻をすすり上げてまるで小さな子どものように泣き続けるヒトミを前にして、僕はなにもできなかったのだった。
☆☆☆
その後、どうにかショック状態が収まった母親も一緒に墓地へ向かった。
祖母の墓は確かに掘り返されていて、棺桶の中は空になっていた。
悲惨な状態の墓地を見ても、ヒトミは1人鼻歌を歌っていた。
「星がキレイね」
とうっとりした表情で言い、僕の手を握りしめる。
その仕草は蘇る前のヒトミそのもので、胸が締め付けられる気持ちになった。
こんな化け物のようになってしまっても、蘇る前のヒトミと同じだと感じられる部分がある。
僕たちは無言で空っぽになった棺桶を土の中に戻し、何事もなかったかのように埋めた。
祖母の体はすべて残飯として捨てて、なかったことにしたのだ。
だって、それ以外にどうすればよかったんだろう?
ヒトミが祖母を食い殺し、更には料理にして家族に食べさせた。
そんなこと、口が裂けても言えなかった。
とにかくヒトミをいっときでも1人にさせてはいけないと、家族たちはヒトミを見張ることにした。
家にいるときでも誰かがヒトミのそばにつき、決して目を離さないこと。
そうする以外に、僕たちにできることなんてなにもなかった。
☆☆☆
例えばこの事態が終わりを告げるなら、きっと僕はなんでもするだろう。
「こういうときはどうすればいいか聞いているか?」
ヒトミが蘇って一週間ほどが経過していた。
このまま家族を置いて東京に帰るわけにはいかなくなり、僕はまだこの家にいる。
そして夜になったとき、ユウジくんの部屋にやってきたのだ。
「無理やり死者を蘇らせたときのこと?」
「そうだよ」
ユウジくんは左右に首を振った。
「おばあちゃんが教えてくれたのは、とにかく不正を働いて蘇らせたら大変なことになるってことだけだった」
ユウジくんはうなだれて答える。
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