第37話

「ごめんなさい。ごめんなさい」



かわいそうになるほど小さな声で何度もつぶやく。



僕も同じように頭を下げ続けた。



「無理やり人を蘇らせた時、その人は生前とは全く違う人間になる。どれだけ優しい人間でも凶悪に、人を殺すことをなんとも感じない人間になる」



坦々を説明されて、ヒトミの口にこびりついた血を思い出した。



強く身震いをする。



「じゃあ、ヒトミは……」



顔を上げて聞くと、父親は大きく頷いてみせた。



「おばあちゃんを噛み殺したのはヒトミで間違いない」



その言葉が重たく室内にのしかかってきたのだった。



☆☆☆


「ご飯の準備ができたわよ」



まだユウジくんのすすり泣きが聞こえてくる室内に、ヒトミの元気な声が響いた。



振り向くとふすまの前にヒトミが立っている。



そう言えばさっきからいい香りが漂ってきている。



腕後時計で時間を確認してみるとすでに夜の8時が過ぎていた。



「ねぇみんなどうしたの? ご飯にしないの?」



祖母が死んだというのにヒトミは平然としている。



自分が殺して来たのだから、気にもならないのかもしれない。



「お父さん、キッチンへ行きましょう」



母親がそっと促して立ち上がる。



「今日はおいしいお肉料理にしたのよ」



ヒトミは目をキラキラと輝かせて説明する。



ゾロゾロとキッチンまで移動してきた僕たちは、すでにテーブルに出されている料理を前に手が出せないでいた。



確かにいい香りがしているのだけれど、まるで食欲はない。



こんなことになってしまったのだから、それも仕方のないことだった。



ヒトミは1人で自分が作った料理を口へ運ぶ。



「これはなんて料理?」



少しでも気分を変えるために、僕もフォークで肉を突き刺して口に運んだ。



しっかりと煮込まれている肉はとても柔らかくて食べやすい。



けれど口に入れた瞬間妙な感触があった。



食べたことのない味だ。



「赤ワインで煮込んだのよ。美味しいでしょう?」



ヒトミは自信満々に答える。



その反面、僕は口の中の肉を吐き出してしまった。



フォークを使って肉を細切れにし、中身を確認する。



そこには布が混ざっているのがわかった。



フォークですくい上げてみると、それは赤ワインで変色しているが、もともとは青色だったとわかる。



「なんだこれは……」



市販の肉にこんな布が混ざっているとは思えない。



「あぁ、ごめんね。服が混ざってたみたい」



ヒトミは軽く肩をすくめて恥ずかしそうに答える。

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