第35話
「わからん。獣に襲われたんだと思うが、どうして1人であんな場所にいたのか……」
そう言ったきり男性は黙り込んでしまった。
「現場を見せてくれ」
いつの間にか玄関先へ出てきていた父親が、深刻そうな表情でそう言ったのだった。
☆☆☆
祖母の死体が見つかったのは、神社の石段の手前だったという。
午後になってから1人でその場を訪れてみると、土に大量の血痕がついているのを見た。
これがあの人の血だと思うと苦い気持ちが浮かんでくる。
ほんの数日前に会ったばかりの祖母だけれど、とてもいい人だった。
そしてその人はもういないのだ。
まるで信じられない出来事の連続で僕の頭はショートしてしまいそうだ。
「おばあちゃん、野生動物に食べられたことになったみたいだよ」
後ろからそう声をかけられて振り向くと、ユウジくんが立っていた。
相変わらず顔色が悪い。
「そうか」
僕はそれしか答えられなかった。
ヒトミの口にベッタリとこびりついていた血を思い出す。
まさかヒトミが?
きっと、家族の誰もがそう感じていただろう。
だけど誰もそれを口には出さなかった。
口に出したら最後。
認めないといけないことがある。
「この辺はクマが出る時があるんだ。だからきっと、クマに襲われたんだと思う」
ユウジくんが早口で説明する。
神社のある森は奥深い。
クマやシカが出てきてもなにもおかしくはなかった。
「うん、そうか」
僕はまた頷いた。
ユウジくんの額に汗が滲んでいる。
今日も暑くなりそうだ。
そろそろ帰ったほうがいいかもしれない。
ここにいても祖母の遺体はもう無いし、葬儀の準備も手伝わないといけない。
「お姉ちゃんが殺したんじゃないと思うんだ」
その言葉に僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
生暖かい風が吹き抜けていき、それは祖母の血の匂いを混じらせていた。
「……おばあちゃんはどうしてここに来たと思う?」
「それはきっと……神社にお姉ちゃんを連れていくためだと思う」
ユウジくんは視線を伏せたまま返事をする。
「おばあちゃんはあヒトミと一緒にいた。それで、野生動物に襲われた」
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