第34話
翌朝、家では祖母がどこにもいないことでちょっとした騒ぎになっていた。
「最後におばあちゃんを見たのはいつ?」
ユウジくんに質問すると、ユウジくんは視線をさまよわせて考えたあと「確か、お姉ちゃんのお風呂騒ぎの後に廊下で見たよ。トイレにでも行くんだろうと思ってたんだけど……」
と、言葉を切った。
その後祖母の姿を見た人は1人もいないらしい。
「ちょっと、外を探してくるわ」
朝食の準備のそこそこに母親が玄関へとかける。
祖母は元気でしっかりしているように見えたけれど、それっでも80歳を超えている。
1人で外へ出て、もしもの事故などが起こらないとも限らない。
「一緒に行きます」
母親へそう言って一緒に玄関へむかったときだった。
ちょうど玄関横の階段を降りてくる音が聞こえてきて自然と視線が向かう。
「みんな、こんな朝早くからどうしたの?」
ヒトミが眠そうな目をこすりながら降りてきた。
ピンクのパジャマ姿で、剥けた皮膚を守るように包帯を巻いたヒトミに僕と母親は釘付けになってしまった。
ヒトミの口元と首周りにベッタリと赤いシミがついているのだ。
それはまるで獣が生きた動物を食べた後のような有様で絶句してしまった。
「ヒトミ、あなたそれどうしたの!?」
いち早く反応してヒトミの腕を掴んだのは母親だった。
「え、なに?」
ヒトミは驚いた視線を母親へ向ける。
「血だらけじゃないの!?」
そんな悲鳴が家の中にまで聞こえたようで、ユウジくんと父親がかけつけた。
そして口元を血だらけにしたヒトミの姿に後ずさりをする。
ユウジくんの顔がみるみる青ざめていくのがわかった。
「血?」
ヒトミはまだキョトンとして、右手で自分の口元を拭っている。
一体なんの血だ……?
朝からいなくなっている祖母と言い、不吉な予感が胸をよぎる。
と、そのときだった。
玄関を激しく叩く音がきこえてきて僕は驚いてその場で飛び上がってしまった。
父親がヒトミを連れてリビングへと姿を消す。
その後母親が何度か深呼吸をしてから、玄関を開けた。
そこに立っていたのは村の男性だった。
40代くらいで、祭りの屋台でフランクフルトを焼いていた人だと思い出した。
その人は血相をかえて玄関に入ってくると「どうしたんですか?」という母親からの質問を待つ前に口を開いていた。
「トミさんが死んだ。道端で、首を食いちぎられて倒れているのを見つけたんだ」
トミさんというのが祖母の名前だと理解するまで少し時間がかかった。
母親が声にならない悲鳴を上げてその場にずるずると座り込んでしまったことで、それが理解できたのだ。
僕は咄嗟に手を伸ばして母親の体を支える。
「そんな、お義母さんが、どうして」
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