第33話

不正を犯して蘇った者が自分の孫であるという認識はできなかった。



それでも祖母は声をかける。



手足はすでに限界で、大量の汗が流れてきていた。



「おばあちゃん?」



ヒトミの声に涙が滲んでくる。



その声は紛れもなくヒトミのもので、だけどそのヒトミは蘇ってきてはならないものだった。



「おばあちゃん、どこへ向かっているの?」



「神社だよ」



「神社? どうして? お祭りはもう終わったんだよね?」



背中のヒトミが不安そうな声を出す。



祖母は大昔にこうして孫をおんぶしていたことを思い出していた。



あの頃のヒトミはとても小さくて、頼りなくて、そして自分はもっと若く元気だった。



神社の石段だって、休憩せずに上がれていた。



「ねぇ、おばあちゃんおろしてよ。私神社へは行きたくない」



なにか感づくものがあるのか、ヒトミは背中で暴れだした。



手足をバタつかせて、必死に降りようとする。



しかし祖母は手の力を緩めなかった。



体力はすでに限界に来ていたけれど、神社の石段を登りきるまでは絶対にヒトミを離さないと決めていた。



「お願いおばあちゃん、おろして」



「ダメだ。できないんだよ」



申し訳さながこみ上げてくる。



ヒトミは観念したかのようにおぶられたまま静になる。



このまま石段を上りきることができるだろうか。



鳥居の前まできた、そのときだった。



不意にヒトミの両手が伸びてきて、祖母の細い首に絡みついたのだ。



咄嗟に首を振ってその手を払おうとする。



しかしヒトミの両手はしっかりと首に食い込んで、ギリギリと締め上げる。



あまらずヒトミを背中から振り落として、大きく咳き込んだ。



息を吸い込み、逃げ出そうとする体をヒトミが馬乗りになって引き止めた。



「やめないか!」



悲痛な叫び声は途中で途絶えた。



ヒトミが祖母の首元に噛みつき、その肉を引きちぎったのだ。



喉に穴が空き、血がほとばしる。



祖母は目を見開いてどのからひゅーひゅーと風の音を鳴らした。



ヒトミはもう1度祖母の喉に噛み付いて肉を引きちぎると、祖母の目からは生気が失われていったのだった。

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