第31話
特に真夏の今の季節はいつもシャワーだけで終わらせている。
そのヒトミが1時間も風呂から出てこないことは珍しかった。
ふと嫌な予感が胸をよぎり、母親と視線を見交わせる。
僕と母親がほぼ同時に部屋から出たのはその直後だった。
☆☆☆
「ヒトミ、大丈夫?」
脱衣所から浴室へと声をかける。
脱衣所にはヒトミが脱いだ衣服が散らかっていて、僕はそれをカゴの中へとほうりこんだ。
ヒトミがこうしてズボラなことをすることも珍しい。
浴室からの返事はなく、すりガラスの向こうで人が動いている気配もない。
「開けるわよ?」
母親の声に僕は一歩後ろへ下がった。
ヒトミの体は見慣れていたけれど、母親の前で直視するのはまずいと思ったのだ。
すりガラスのドアを開けた瞬間湯気が一気に流れ込んでくる。
その熱に僕は思わず顔をしかめた。
「ヒトミ!?」
母親は悲痛な声を上げて浴槽へと入ったので、僕もその後に続いた。
真っ白な湯気の奥に見える、古いステンレス製の湯船にヒトミは肩までつかっていた。
追い焚きをしたままなのか湯船はボコボコと音を立ててゆだっている。
僕は手を伸ばしてガスを止めた。
手を湯船につけてみるとそれは熱湯といってもいいほどの熱さになっていて、すぐに引っ込めた。
「ヒトミ、ヒトミ!!」
母親が両手を熱湯につけてヒトミの体を湯船から引き上げようとする。
ヒトミの体は真っ赤になっていて、引き上げると同時に皮膚がズルリと剥がれ落ちた。
「キャア!!」
悲鳴を上げて尻もちをつく母親。
ヒトミの体は支えを失って再び湯船の中に落ちてしまった。
「くそっ」
熱されたチェーンを引っ張り湯船の栓を引き抜く。
窓を開けて視界を遮っていた湯気を外に排出する。
そうしてようやく僕は湯船に両足を突っ込むと、ヒトミの体を抱きかかえた。
ヒトミの体は熱を持ち、触れた場所から皮膚がズルズルと引き剥がれていく感触があった。
それでもどうにか脱衣所に寝かせ、シャワーで水を浴びせることに成功した。
「ヒトミ、目を開けろ!」
懸命に声をかけてもヒトミは目を開けない。
剥がれ落ちた皮膚からはドロリとした血液な流れ出し、それはあの腐敗した池を彷彿とさせる匂いを漂わせていた。
「すぐに病院に連れて行かないと!」
異変に気がついて駆けつけたユウジくんが叫ぶ。
しかし、病院は隣町にまで出ないとない。
ヒトミも全裸のまま移動させるわけにはいかなかった。
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