第27話

☆☆☆


ヒトミを寝かしつけた母親が戻ってきたとき、キッチンはすっかりきれいになっていた。



ただ、虫を切ったまな板はもう使いものにならないので、捨てる他なかったのだけれど。



「戻ってきた人間はみんなあんな風になるのか?」



口火を切ったのは父親だった。



眠ったヒトミを起こさないよう、小声だ。



「そんなの聞いたこともないわよ」



月明かりで照らし出される両親の顔は青白い。



夜も開けきらない頃から娘が起き出して虫料理を作っていたのだから、まだ動揺しているみたいだ。



「明るくなってから神社に行って説明してみようか」



ここで頼れる人は神主さんただ1人だ。



神主さんによって蘇る人間が決められ、そしてそれが実行されたのだから。



でも……。



僕はユウジくんへ視線を向けた。



ユウジくんは両親よりももっと青い顔をしている。



僕たち2人は神社に近づかなければ、赤い花を移動したことは誰にもバレないだろうと考えていたのだ。



それが、こんな事態になってしまったらバレるのも時間の問題だ。



「なにが起こったんだろうねぇ」



不意に後方からそんな声が聞こえてきて振り向くと、いつの間にかそこには祖母が立っていた。



のんびりとした口調で言ったものの、その目はするどくユウジくんを見つめている。



すべてを見透かしたようなその目に、ユウジくんはうつむいてしまった。



「戻ってきた死者があんな風になるなんて聞いたことがないよ」



祖母は空いている席にゆっくりと座る。



「祭りのなにかがいつもと違ったんじゃないかと、私は思うけどねぇ」



その言葉に僕もユウジくんも何も言えなかったのだった。



☆☆☆


結局僕たちの話し合いは朝までかかってもなにも産まなかった。



100年に1度の祭りのことだから、明確に断言できることなんてなにもない。



ただただ時間が過ぎて、母親がまともな料理に取り掛かった。



だけどそれを食べる気分にはなれなかった。



途中で起き出してきたヒトミは夜中の出来事なんてすっかり忘れてしまった様子で、1人だけご飯をおかわりしていた。



そんなヒトミを見ていても変なところはなにもない。



夜中の出来事は本当は夢だったのではないかと思えてくるほどだ。



だけどあれは現実だ。



新しくなったまな板が、それを物語っていた。



「ねぇケイタ、これから散歩に行かない?」



洗濯物を終えたヒトミがそう声をかけてきた。

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