第26話

それにしては窓から差し込む光が暗いな。



そう思って窓の外を確認してみると、空にはまだ星がまたたいでいるじゃないか。



僕が寝ぼけているんだろうかと目をこすってみたけれど、星空は変わらずそこにある。



キッチンからはトントンと包丁でなにかを切っている音が続いていて、味噌汁の匂いもし始めた。



こんな時間に料理?



朝は慌ただしく忙しいから、夜中の間に作ることにしたんだろうか?



いや、だとしたら作っている人はいつ寝るんだ?



どう考えてもやっぱりおかしくて僕はそっと部屋を出た。



キッチンへと続く廊下を歩いているとユウジくんと父親、母親と合流をした。



ということは、今キッチンで料理をしているのはヒトミか祖母ということになる。



祖母がこんな時間にキッチンに立つというところは想像ができなくて、僕とユウジくんは目を見合わせた。



なんだか不吉な予感がしつつ、思い切ってキッチンのドアを開けた。



その向こうには白いエプロンをつけていお玉を持っているヒトミがいた。



こちらにきがついてニッコリと微笑み「みんなおはよう」と、元気に言う。



「ヒトミ、こんな時間になにしてるの?」



母親が咎めるような口調で言い、近づいていく。



大きな鍋からはお味噌汁の香りがしてきているが、いつもはこんな大量につくることもない。



明らかに量を間違っている。



「もう朝よ?」


ヒトミはなんでもない様子で返事をして味噌汁作りを再開する。



なにかおかしいと感じながら近づき、鍋の中を確認して絶句してしまった。



鍋の中に入れられていたのは切断されたミミズや、カエルなど、虫ばかりだったのだ。



横のまな板の上には半分に切られたバッタが転がっている。



「なにしてるんだ! こんな物食べられるわけないだろう!?」



異変に気がついた父親が真っ青な顔で叫ぶ。



ヒトミはキョトンとした表情で自分の作っている物を見つめて「どうして?」と首をかしげた。



「どうしてって、全部虫じゃないか!」



叫ぶ父親を横目に、ヒトミはお玉で味噌汁を救って味見をしはじめた。



そのなかにはうねうねとうごめく虫たちが入っている。



ヒトミはそれを噛み砕き、飲み下し「おいしくでいきたよ」と、満足そうに微笑んだ。



途端に吐き気がこみ上げてきて僕はヒトミの手からお玉を奪い取った。



「やめよろ!!」



怒鳴るとヒトミは一瞬ビクリと体を震わせて、怯えた視線をこちらへ向けた。



その評定にチクリと胸が痛むが、ここでひるんではいられない。



「一体どうしたっていうんだよ。こんな変なことして」



「変ってどうして?」



ヒトミの目には涙が浮かんでいる。



まさか、本当に自分がしていることがおかしいと認識していないのか?



虫入りの料理を本気で作っていたっていうのか?



怒られている理由が理解できないのか、ヒトミはグズグズと鼻をすすりあげ、まるで子供のように泣き出した。



最後には「うえぇん」と声まで上げ始めてしまい、見かねた母親がヒトミの肩を抱いて部屋へと戻っていったのだった。



残された僕と父親とユウジくんの3人は料理の後処理に追われた。



大きな鍋いっぱいに作られた虫料理を捨てて、鍋を洗う。



その間誰もなにも言わなかったが、感じていることは同じだった。



ヒトミは一体どうしてしまったんだ……?

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