第25話
それから帰宅したヒトミはいつもどおり母親や祖母と一緒に料理に性を出した。
僕に正式にプロポーズされたことを言ったのかどうかはわからない。
今ならヒトミのことをとても大切にできる気がした。
昨日には失ってしまったと思っていた命が、今日には戻ってきたのだから。
この不思議な村にはまだまだ沢山の歴史や伝承が残っていそうだ。
客間から外の景色をぼんやりと眺めていたら、ノックオンがしてふすまが開いた。
立っていたのはユウジくんだ。
「ユウジくん」
僕はすでにこの高校生のことを自分の弟以上の存在だと感じていた。
ユウジくんが僕を誘ってくれなければ、ヒトミが戻ってくることもなかった。
心の友。
そう言っても過言ではないかもしれない。
「あのさ、ちょっと相談があるんだ」
おずおずとした様子で言い、部屋に入ってくる。
僕はユウジくんのために押し入れから座布団を出した。
「かしこまってどうかしたのか?」
僕は座布団に座らずにその場にあぐらをかいた。
「あのさ、この村にはまだ言い伝えがあってさ」
今まさにそういう事を考えていた僕は身を乗り出した。
「それってどういうもの?」
「あの、祭りのことなんだけど」
そう言われて少し拍子抜けしてしまいそうになった。
できれば祭りとは関係のない伝承を聞いてみたかったのだ。
けれど、こうしてわざわざ話に来たということは、死者を蘇らせる以外にあの祭りにはなにかあるということで間違いない。
「復活祭のことだね? あの祭りは本当にすごいものだと思うよ。他の村や町、特に都会では決して受け入れられないだろうし、できる人間だって存在していないはずだよ」
僕は心からの感想を述べた。
人知を通り過ぎた存在でしかなし得ない復活祭。
それだけ古い伝承があるのだと思う。
「そうなんだけどさ、えっと……」
ユウジくんは視線をさまよわせて口ごもる。
そういえば今朝もこんな様子でなにかを話そうとしていたっけ。
無理やり聞き出すのは良くないと思い、僕は聞き役に回ることにした。
「あの、実は――」
ようやくそこまで口を開いたとき、タイミング悪く「晩ごはんができたわよ」と、ヒトミがノックもなしに入ってきてしまった。
ユウジくんは口を閉じてうつむき、ヒトミは「あら、2人共すごく仲良くなったみたいね」
と、嬉しそうだ。
可愛くて料理上手なヒトミだけれど、少しばかりタイミングの悪いところがある。
そこが可愛いところでもあるのだけれどと、僕は苦笑いを浮かべた。
「ごめんユウジくん。ヒトミがこう言ってるから、食後でもいいかな?」
「うん、いいよ」
ユウジくんはどこかホッとした様子で頷いたのだった。
☆☆☆
その後、なんだかんだと家族の団らんがあり、結局ユウジくんと2人で話をする時間がなくなってしまった。
死んだ娘が戻ってきたのだから、それも仕方のないことかもしれない。
父親も母親も何度もヒトミの頬をなで、頭をなで、その存在を確認した。
その度にヒトミは顔を赤くして「もう、なぁに?」と、頬を膨らませた。
本人はなにもわかっていないから、ただ子供扱いされているように感じたみたいだ。
昨日の夜は朝まで眠れなかったこともあり、僕は少しお酒を飲んだだけでその場で倒れるように眠りこけてしまった。
ぐっすりも眠って目をさますと、また朝食のいい香りが漂ってきていた。
ヒトミがかけてくれたのだろうか、タオルケットを丁寧に畳んで部屋の隅に置く。
テーブルに並んでいた晩御飯の食器などもキレイに片付けられている。
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