第23話
そっと手を伸ばしてヒトミの頬に触れる。
暖かくて柔らかい肌の感触に涙が出そうになる。
「ヒトミ。本当にヒトミなんだな?」
「そうよ。どうしたの?」
ヒトミはキョトンとした表情になり、僕に聞き返す。
本人に死んでいたときの記憶はないみたいだ。
「よかった。戻ってきたんだな」
華奢な体を抱きしめると折れてしまいそうに感じられるのも、生前のまま変わっていない。
なにもかも同じ、ヒトミ本人がここにいる。
「ヒトミ、おかえり」
母親の声が聞こえてきても、僕はヒトミを抱きしめ続けた。
家族たちがよくやくキッチンへ入ってきて、口々にヒトミにおかえりを言う。
その度はヒトミは瞬きを繰り返していた。
僕はもう絶対にヒトミを離さない。
もう、絶対に……。
☆☆☆
「あのお祭りは本物だったんだな」
ユウジくんが興奮したように言った。
ユウジくんの部屋の窓から庭の様子を見ていた僕は視線を室内へと戻して「そうみたいだな」と、頷く。
庭からはヒトミの元気な声が聞こえてくる。
さっきから、祖母と2人で庭木の手入れをしているのだ。
「ユウジくんも半信半疑だったのか?」
「そりゃあね。いくら生まれ育った村のお祭りって言っても、死人が蘇るなんて荒唐無稽だもんな」
それでもあれだけ必死になって僕を仲間に誘ったのだ。
よほどヒトミのことが好きなのだろう。
「お姉ちゃんも戻ってきたことだし、まだしばらくはここにいるんだろう?」
「あぁ、そのつもりだよ」
果たしてヒトミを東京に連れ帰っても良いものかどうか、まだ判断しかねていた。
見たところ生前となにも変わっていないように見えるけれど、ヒトミは1度死んでいるのだ。
幸い東京の友人らにそのことは伝えていなかったが、儀式を行ったこの村から出すことに抵抗があった。
もしもこの後ヒトミの身になにかがあったとき、僕1人で対応する自信もない。
「そっか。よかった」
ホッとしたようなユウジくんの表情にはどこか影があり、気になった。
「どうした? なにか心配事でもあるのか?」
「ううん、別に、なんでもないよ」
慌てて左右に首をふる様子は何かを隠しているようにも見える。
だけど本人が言いたくないものを無理やり聞き出すつもりはなかった。
「そっか」
僕はそれだけ言い、戻ってきた平穏な日々を噛み締めたのだった。
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