第22話
ヒトミを池に沈めた晩はなかなか寝付くことができなかった。
夕飯の席でも気分が浮かず、沢山の屋台のご飯が食卓並んでもたこ焼きを一個食べただけで終わった。
葬儀の準備を手伝ってくれていた村の人達は今はもう1人もおらず、みんな帰ってしまっている。
ヒトミは蘇ることが決まり、もう葬儀の準備を必要としていないからだ。
それはわかっているつもりだけれど、祭り自体が本物だと思えない僕はヒトミの体は池に沈んだからもう用無しになったようにしか感じられなかった。
モヤモヤとした気分を抱えていると、結局夜が開けるまで寝付くことができなかったのだった。
ようやく眠りについて1時間ほど経過しただろうか。
味噌汁の薫りがして目が覚めた。
布団の上に上半身を起こしてその香りを確認し、客間を出る。
まだ朝ごはんには少し早い時間なのにな。
そう思いつつ廊下へ出るとユウジくんと祖母、それに父親と母親がキッチンの前で棒立ちになっているのが見えた。
「おはようございます」
声をかけても、みんなこちらを見ない。
みんな、キッチンを凝視していて僕の声が届いていないみたいだ。
みんな揃って廊下に立ち尽くして一体何をしてるんだ?
キッチンでは母親が味噌汁を作っているだけじゃないのか?
そう思ってふと違和感に気がついた。
母親は今みんなと同じように老化に突っ立って、呆然とした顔でキッチンを見ているではないか。
じゃあこの味噌汁の香りは?
包丁で何かを切っている、この音は?
一瞬大きく息を飲んだ。
まさか!
僕は家族たちの体を押しのけるようにしてキッチンのドアの前に立った、
開け放たれていっるキッチンには、白いエプロンをつけた女性が立っている。
その女性が誰なのか見間違うはずもない。
愛しい恋人。
結婚を決めた、僕の恋人。
「ヒトミ!」
名前を呼ぶとヒトミは包丁を止めて振り向いた。
血色がよく、目は輝きに満ちているヒトミが振り向く。
「ケイタ、おはよう」
にっこりと微笑むそれは生前のヒトミそのままだった。
間違いない。
ヒトミだ!
僕は目を大きく見開き、ふらふらとヒトミに近づいた。
こんなに近くにヒトミがいるのにまだ信じられない。
僕は夢を見ているんだろうか?
途中で足を止めて自分の頬を思いっきりつねってみる。
痛みで涙がにじみ、ついでに笑顔が漏れた。
これは夢じゃない!
「ちょっとケイタなにしてるの?」
ヒトミが驚いたように声を上げる。
僕はへへっと笑って見せてヒトミ近づいた。
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