第21話

☆☆☆


ヒトミの遺体にさっきもらったばかりのお守りを握らせると、親族たちはその遺体を車に乗せた。



後部座席に寝かされたヒトミには薄い布団が被せられたが、もう顔を隠す布は用意されなかった。



死化粧を施されたヒトミの顔はいつになく美しく、まるで作られた人形のようにも見えた。



そんなヒトミを乗せて車はゆっくりと走り出す。



4人の乗りの車ではヒトミの父親と母親しか乗ることができず、残された僕たちはその車について歩くことになった。



「足、大丈夫ですか?」



森の中まで歩くことになった祖母を心配して声をかける。



「大丈夫よ。ありがとう」



祖母は嬉しそうに頬を緩めて答えた。



さっきの石段を最後まで登りきったことと言い、ヒトミの祖母は本当に足腰が強いみたいだ。



トロトロと走る車を追いかけて3人歩き、どうにか森の入口までたどり着いた。



ここから先は車が通ることはできない。



車から降りてきた父親は、ヒトミの体をおんぶして歩き出す。



細身のヒトミだけれど意識のない人間はとても重たいを聞く。



ヒトミの体はなんども背中からずり落ちてしまいそうになり、その度に立ち止まってかつぎ直すことになった。



そうして進んでいると、あっという間に森の中は暗くなってしまった。



太陽が陰り、木漏れ日が刺さなくなる。



気温がグッと下がってきて汗が冷やされ、今が真夏だということを忘れてしまいそうになった。



そうしてたどり着いた池は前回と同じように腐敗臭を放っていた。



この中にヒトミの体を入れなければならないのかと思うと不愉快な気分になるが、それをグッと押し込める。



父親と母親が池のギリギリのバショに立ち、ヒトミの体をそーっと、壊れ物を扱うように行けに浮かべた。



ヒトミの体は水の上に浮かび、ゆらゆらと揺れて中央へと流されていく。



風もないのにどうして移動していくんだろう?



不思議に思いながらその光景を見つめていると、ヒトミの体が中央に来た瞬間、池の中から誰かに引っ張られたようにヒトミの体が沈んだのだ。



「ヒトミ!」



咄嗟に叫び超えを上げて助けに向かおうとしていまう。



一歩踏み出したところで祖母に腕を掴まれて動きを止めた。



ヒトミの体はもう半分くらい水に沈んでしまい、ズブズブと沈み続けている。


「これでいいんだよ。これで、あの子は明日戻ってくるんだから」



祖母は落ち着き、満足した声色でそう呟いたのだった。

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