第18話
ヒトミにつれてこられた時は大きな通りを歩いて来たけれど、今回は裏側の道から来たのだとわかった。
丘の上にあるここからだと村の様子がよくわかる。
ユウジくんは墓石に身を隠しながら村を見下ろした。
「神主さんはあの神社から出てくるんだ」
指差した先には赤い鳥居があり、その鳥居の奥へと続く石段が見える。
「あの神社にはヒトミと一緒に行った」
そう言うと、ユウジくんは複雑な表情で頷いた。
それからしばらくは何事もなく時間だけが過ぎていった。
昨日の雨のせいで地面が濡れていて足元が悪いけれど、ここでこうして動かずにいるだけなら、どうってこともなかった。
僕の吐いている白いスニーカーはドロの汚れだけでなく池の藻が絡みついて緑色に変色している部分もある。
それをぼーっと眺めていると、途端にユウジくんが身を屈めた。
「屈んで!」
小声で言われて僕も同じように身を低くする。
墓石の影から顔をのぞかせて見てみると、あの長い石段から神主さんと思わしき人が降りてくるのが見えた。
その人は白い狩衣を来て水色の袴をはいている。
頭には黒く尖った烏帽子をかぶり、手には赤い花を持っていた。
「あれが赤い花?」
「そうだよ」
遠くからみるだけではなんの花かわからないが、僕には見たことがないもののように思われた。
「あの花はこの村でしか育たない花なんだ」
「そんなものがあるのか?」
花なんて、環境さえ整っていればどこでも育てることができそうなのに。
「ついていこう」
石段を下りきった神主の後を追いかけるため、僕たちは足音を殺して移動を開始したのだった。
☆☆☆
今年死んだ人は全部で4人。
結果から言えば復活祭に選ばれたのはヒトミではなかった。
神主は村の端にある小さな家の前で立ち止まり、見たことのない花びらの大きな赤い花を飾った。
僕とユウジくんはそれを固唾を飲んで見守っていた。
「あの家は飯田さんの家だ」
ユウジくんが小声で言う。
昨日教えてくれた人たちの中に、そんな名前の人がいたことをどうにか思い出すことができた。
「これからどうするんだ?」
神主の姿はどんどん小さくなっていき、ついに見えなくなってしまった。
その瞬間ユウジくんは家の影から飛び出した。
そのまま真っ直ぐ飯田さんの家の玄関へ向かう。
「この花をうちの玄関先に移動するんだ」
つきさっき神主さんが置いたばかりの花を手に取る。
そのユウジくんの手は微かに震えていた。
「よし、行こう」
ここまで来たらもう引き返せない。
僕はユウジくんを急かすようにして、家へと急いだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます