第13話
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最初に感じたあの大きな揺れは、ヒトミが落下した時に生じた揺れだったらしい。
そうわかったのは隣町の病院でのことだった。
ヒトミはすぐに救急搬送され、応急処置を受けた。
しかし……。
「全力を尽くしたのですが」
年配の医師はそう言い、うなだれた。
僕はなにも言えなかった。
病院に駆けつけたヒトミの家族も誰も一言も言葉を発しない。
ヒトミは死んだ。
あの池で溺れて死んでしまった。
「……っ」
最初に声もなく泣き崩れたのはヒトミの母親だった。
あれだけ活発で、笑顔が素敵だった人が両手で顔を隠し、必死に嗚咽を堪えて泣いている。
僕はその姿を見ても何も言えなかった。
僕が池に行きたいなんて言わなければ。
僕がボートに乗ろうなんて言わなければ、きっとこんなことにはならなかった。
思えばヒトミは池へ行くことも、ボートに乗ることも望んではいなかったじゃないか。
「僕のせいだ……」
恐ろしいほど静かな院内で、僕の声だけが響き渡ったのだった。
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ヒトミが死んだのは僕のせいだ。
僕がヒトミを殺したようなものだ。
いくら自分でそう思ってみても、村の人たちは誰も僕のことを責めなかった。
ヒトミの体がキレイにされて家に戻ってきたときも、これが本物の死体であると理解した後も、誰もなにも言わない。
僕に早く出ていけとも言わない。
いっそ、責められた方が楽なのに。
ヒトミの葬儀は明日行われることになったが、僕は自分が参加する資格などないと判断した。
廊下に立っていても、村の人達が手伝いに来てくれていて僕にはやるべきことがない。
時々忙しそうに立ち働く人にぶつかられるくらいなものだった。
もう、帰ろう。
夕方になり、僕は帰宅する準備を始めた。
ずっとここにいてもやることはない。
それにヒトミの家族はきっと僕の顔なんて見たくないはずだ。
ノロノロとした怠慢な動きで荷物を詰めて、部屋を出る。
僕の前を何人もの村の人達が通り過ぎて行ったけれど、気にかける人は1人もいなかった。
僕は誰にも声をかけず、誰にも声をかけられずに玄関へ向かう。
最後にもう1度だけヒトミの顔を見たくて仏間のふすまをそっと開いた。
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