第10話
「ここが神社だよ」
昨日鳥居を見た場所までやってきて、ヒトミは足を止めた。
神社は急な石段の上にあり、その奥の方は見えないほど高い位置にある。
「これだけ奥まった場所にあると、登るのが大変だな」
せっかくここまできたのだからと石段を登っていると、僕ですら息切れしてきてしまった。
村の年寄連中では決して最後まで登り切ることはできないだろう。
「もちろん、裏から入れば車が通れる道があるよ」
ヒトミがそういうので納得した。
歩いて登るにしてもきっとそっちの道の方が楽なことだろう。
どうにか最後まで登りきったとき、すっかり汗でシャツが背中に張り付いていた。
境内へ抜けると涼しい風が吹いてきて、それでひとごこちがついた。
「明日のお祭りの準備で忙しいみたい」
境内では沢山の村人たちが行き交っていて、屋台の骨組みもできあがりつつある。
明日は天気もいいみたいだし、祭り日和になりそうだ。
「お参りして戻ろうか」
ヒトミに促され、僕たちは賽銭箱へ向かったのだった。
☆☆☆
長い階段を登るのも、下るのも一苦労だった。
下る時は少しでも足を滑らせれば下まで落下してしまいそうで何度もヒヤヒヤした。
それに対してヒトミはこの神社の石段になれているようで、トントンとリズムよく降りていた。
「ふぅ、やっと降りてきた」
石段を最後まで折りきって振り向くと、ヒトミが最後の一段をピョンッと飛んで折りるところだった。
「ヒトミは案外足腰が強いな」
「へへっ。この石段で鍛えられてきたからね」
ヒトミは自信満々に答える。
境内の自販機で購入したジュースを飲みながら再びあるき出す。
カラカラに乾いた喉にオレンジジュースが染み渡っていくようだった。
「村唯一の自販機よ」
購入するときにヒトミはいたずらっ子のような視線を僕へ向けてそう説明した。
さすがに自販機くらい他にあるだろうから嘘をついたなと思ったけれど、昨日から1台も見かけていないことを思い出す。
「本当に、村唯一の自販機なのか?」
「だからそう言ったでしょう? 神社には普段からお参りする人たちがいるから、設置したんだって」
「ふぅん」
そこまで徹底してなにもないのだと、改めて驚いた。
それから僕たちは他愛のない会話をしながら足を進め、森の入口へとやってきていた。
その森は村の中では一番大きな森で、中へ入っていくための小道はひとつしかなかった。
「この中に池があるの。だけど本当にただの池だから、見てもつまらないよ?」
ヒトミは小道へ入る直前までそう言っていた。
僕を池からと遠ざけたがっているように感られて、余計に好奇心がくすぐられた。
「行ってみよう」
僕はヒトミの手を握りしめて歩き出したのだった。
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