第8話
そして山の水はこの村に流れてきても、隣の県には流れていかないという。
そういうことが関係しているのだろう。
「ただ悲しいのは、蘇ったからと言って不死身になるわけじゃないことよね。せっかくこの世に戻ってきても結局その人にも寿命があるんだから」
ヒトミはため息交じりに言った。
「確かにそういうことになるね。でもちゃんと死んでいかないとこの村はすぐに人間でいっぱいになってしまうよ」
「それはそれで困りものよねぇ」
ヒトミがあまりに真剣に悩んでいるのでつい吹き出してしまった。
そもそも死者が蘇るなんてこと、物語の中でしかありえないことだ。
それを真剣に悩んだところで仕方がない。
「僕は死者よりも、今日の晩御飯の方が気になるな」
村をほぼ一周してきたので随分と時間は経過している。
商店も飲食店もないから、昼は食いっぱぐれてしまっていた。
「そうね。私も早く帰って手伝わなきゃ」
☆☆☆
その夜も美味しいご飯をごちそうになった。
豆腐ハンバーグにお味噌汁にサラダ、それに祖母の漬物。
今朝は大根の漬物だったけれど、今度は白菜の漬物だ。
なんでも冬のうちに沢山作って、冷蔵庫で保管しているのだという。
ほどよく塩気が聞いていて、オカカをかけて食べると白米が進む。
「あんた、なかなかよく食べるねぇ」
僕の食べっぷりを気に入ったのか、祖母は終始顔をシワシワにして微笑んでいた。
「おばあちゃんもケイタのことを気に入ったみたい」
ご飯もお風呂も終わり、ヒトミは僕の部屋に来ていた。
湯上がりのいい薫りと、薄ピンク色のパジャマに身を包んだヒトミについ視線が奪われる。
体が熱を持っているようでその頬もピンク色に染まっている。
「それは嬉しいな」
「お父さんもお母さんも、ケイタなら安心だって言ってれたの」
「本当に? 僕は君たちの家族に受け入れてもらえた?」
「もちろん! こんなにうれしいことってないわよね」
うっとりと目を細めて、僕の肩に頭を乗せる。
僕はヒトミの肩を抱いて引き寄せた。
シャンプーの薫りが鼻にくすぐったく感じられる。
このままキスして押し倒したくなってしまうけれど、理性でグッと押し殺した。
「弟はどう?」
「ユウジ? あまり口には出さないけれど、多分喜んでるわ。あの子が自分から率先して宿題を早く終わらせるなんてこと、今まで1度もなかったもの。きっと、あなたの長く話しがしたいと思ったからよ」
それは本当のことかどうかわからなかったけれど、それでも嬉しく感じた。
晩ご飯の片付けもユウジくんと2人でやったし、その時に最近学校で流行っているゲームの話やもうすぐやってくる受験の話もしてくれた。
少なくても僕のことを嫌ってはいないみたいだ。
「ここへ来てよかったよ。ヒトミの家族に会えてよかった」
「そう言ってくれると嬉しい。今度はケイタの実家に連れて行ってくれる?」
「もちろんだよ」
僕は頷き、夜は更けていったのだった。
☆☆☆
翌日もヒトミが起こしに来てくれた。
目を開けるとヒトミの笑顔があって、朝食のいい香りが鼻腔をくすぐる。
まだ結婚なんて考えていなあkったけれど、この村に来てからはこんな毎日が続けばいいと、心の底から願うようになっていた。
ヒトミにハメられたような気がしなくもないけれど、それはそれでまぁいいかという感じだ。
大人数で朝食を食べて、ユウジくんと2人で洗い物を買って出る。
それが終わったら昼間では自由時間だった。
「なにか、まだ手伝うことがあればしますけど」
洗濯物を始めたヒトミの母親を見て僕はそう声をかけた。
僕も入れて6人分の洗濯物はカゴいっぱいで、これを干すのは大変そうだ。
「あらありがとう。ケイタくんは本当に気が利くわねぇ」
カゴを受け取るとずっしりと重たい。
僕は広い庭へとそれを持っていった。
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