第5話
翌日、泊まった部屋の窓から外を確認してみると太陽は雲で覆われていた。
ヒトミに聞いていたとおりあまり日が差さない村みたいだ。
湿度は高くでじっとりと絡みつくような熱に汗が流れ出し、僕はすぐに窓を閉めた。
この村の人たちはこの湿度の高い夏を過ごすためにエアコンや除湿機は常に稼働させているようで、家の中は快適だった。
北海道では真冬でも半袖で過ごせるくらいに家の中を温めると言うし、それと同じことなんだろう。
ちょうど着替えを終えたとき、ふすまをノックされた。
「ケイタ、ご飯できたよ」
ヒトミの声だ。
「うん。今行く」
答えてから頬がニヤける。
今の会話、なんだか新婚っぽくなかったか?
ヒトミと結婚したら毎朝こんな感じなのかなぁ?
そう思うと更に頬がにやけてきてしまう。
キッチンへ向かう前に一度ちゃんと頬の筋肉を引き締めてから、僕はドアを開けた。
どこの部屋も和室だけれど、キッチンダイニングだけは高いテーブルと椅子になっていた。
床もフローリングである。
「おはようございます」
キッチンにはすでに父親もユウジくんも揃っていて、僕は頭を下げた。
客人である僕が一番最後に起きるのはダメなことでは無いと思うけれど、少しだけバツが悪い感じがした。
「さぁ、みんな座って」
ヒトミと母親が作った料理が食卓に並ぶ。
大根のお味噌汁にだし巻き卵に焼き魚。
どれも食べ慣れた料理だけれど、この家の料理は特別美味しく感じられた。
「これはおばあちゃんがつけた漬物なのよ」
小鉢に出されたたくあんの漬物はしっかりと味がついていて白米が進んだ。
祖母はシワシワの顔を更にシワシワにして微笑み「市販のじゃ味が薄くてね」と言った。
この年令で濃い味付けのものが好きだなんて、味覚が若いものだ。
「朝ごはんを食べたら、ケイタに村を案内してくるね」
「あぁ、そりゃあいいねぇ。なにもない村だけど、自然だけはあるからねぇ」
祖母がうんうんと相槌を打つ。
両親ともそうすればいいと頷いてくれた。
僕は朝食のお礼にユウジくんと2人で洗い物をした。
水道から流れ出る水は近くの小川のものらしくて、ヒヤリと冷たいそれが手に心地いい。
ここは湿度さえどうにかなれば暮らしやすい場所なのかもしれない。
洗い物が終わる頃にはそんなふうに考えられるようになっていた。
最初はなにもない場所では不便だと思っていたけれど、結局昨日ここへ到着してから1度もスマホを開いていないのだ。
肌見放さず持っていたものが使えなくてもなにも不便ではない。
ここは、そんな村なのかもしれない。
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