異世界の章:第一部 魔物の森編

ep5 魔物、現る!

(本話から、いよいよ本編がスタートします。

ここからは、基本的に、三人称で描かれていきます)


ーーーーーーーーーーーーーーー


「グルアァァァァァァ!!!」


 魔物はすぐそこまで迫って来ている!

 

「おい!ミッチー!何か打つ手はないのか!?」

「こうなれば...コーロ様!魔法を使いましょう!」


「魔法?さっきのやつか!?」


「はい!今度はもっと集中して、強くイメージを持って、やってみてください!そうすれば、二三分間ぐらいは辺りを完全な暗闇にできるハズです!」


「その闇に乗じてここから逃げるってことか!でも暗闇の中だと俺達も何が何だかわからなくならないか!?」


「大丈夫です!暗黒魔道師は、その闇の魔力により、どんな暗闇でも夜目が効きます!現に、コーロ様はこの夜の森の中でも辺りや魔物の姿をハッキリ捉えることができているでしょう!?」


「そういえば確かに...!でもミッチー、おまえはどうするんだ!?」


「なのでコーロ様はワタシを抱えて逃げてください!」


「わかった!魔法を使うときは窓を開けて外に向かって手をかざすのがいいか?」


「そのとおりです!コーロ様は窓に向かって魔法を唱えてください!発動する一瞬前にワタシが窓を開けます!」


「その身体で開けられんのか?」

「イケます!パワフルミッチーここにアリです!」


「そ、そうか!よし!じゃあいくぞ!」

「はい!」


 コーロはス~ハ~と一回深呼吸をすると、両目を閉じ、意識を胸の奥に集中する。


「コーロ様!辺り一面を漆黒の闇に包むイメージです!それを強くイメージして!」


 彼は集中した。危機的な状況であるにも関わらず、静かに、驚くほどに。

 これは、彼の暗黒魔道師としての資質なのか。


 彼は両手をかざした。

 黒い波のような闇の魔力のエネルギーが彼の全身をブオォォと駆け巡り、その身体をブウンと包む。

 エネルギーの流れが彼の両腕に傾き、両の手から今にも魔法が放たれんとしたその時!

 ミッチーはぐぐっと全身を使い、窓をガラッと開けた!


「さあ!コーロ様!今です!」


 彼はパッと目を開き、魔法を唱えんと口を開いた!

「ダークナ...」


「ちょっと待ってくれ!!」


「え??人の言葉!?」

 コーロはまったくの予想外の出来事に思わず面食らい、魔法を解いてしまう!

 

「お、おい!ミッチー!今、野太い人の声?というか、人間の言葉があの魔物から聞こえて来たような気がしたんだが!?」


「お、おそらく、あの魔物から発せられたものかと思われます!」


 コーロとミッチーは互いに顔を見合わす。

 すると再び、低く野太く響き渡る声が、人の言葉が、小屋の外から、魔物の方から発せられた。


「おい!それは闇の魔力じゃないのか!?そこのアンタ、まさか、ダークウィザードじゃないのか!?」


 その言葉は、明らかに魔物から発せられているものだ!


「ミッチー!あれ完全にアイツが喋ってるよな!?魔物って喋れんのか?」


「一部の知能の高い魔物は人間の言葉を操れます!中には人間と共に暮らす魔物もいるのですよ!」


「それがおまえの言っていた悪くない魔物ってことか!?」


「そうです!それでコーロ様、どうなさいますか!?あの魔物は対話を求めているようですが!」


「どうって...なら、とりあえず逃げる準備をしつつ、こっちも話しかけてみるか...?争わずに済むならそれに越した事ないしな...」


「そうですね。では......おーい!魔物さーん!」

「っておい!いきなり過ぎだろ!まだ心の準備が...」


 魔物はミッチーの呼びかけに反応し、言葉を繰り返す。

「なあ、おい!あんたダークウィザードだろ!?それ闇の魔力だろ!?」


 コーロは意を決して、その声に応えた。

「......あ、あの~、その、ご用件は何でしょうか~?」


「ちょっとコーロ様!なんですかその情けない声は!それでも営業やってたんですか!?」


「いやこれ完全に営業の範疇超えてるからね!?」


「もう!わかりました!ではワタシに任せてください!」

 ミッチーは頼もしく言い放つと、鳥のように窓からスーっと表に出ていき、巨大な魔物の正面に躍り出るやいなや、怖いもの知らずに話しかけた。

「魔物さん!ワタシ達に何の御用ですか?」


「うお!?本が喋った!?怖っ!キモっ!」


「ちょっ!あなたに言われたくないですよ!どう考えても見た目が怖いのはあなたの方じゃないですか!あなたの方が気持ち悪いですよ!」


「いやフツー本が喋らねーだろ?」


「いきなり初対面の女性に向かって気持ち悪いなんて、あなたモテないでしょう!?」


「何言ってんだコイツは!?」


 キーキーギャーギャーと的外れのやり取りをすっとんきょうに繰り返すミッチーと魔物。


「な、何をやっているんだアイツは......」

 コーロは、その光景を見ながら唖然としていた。

 仕舞いには呆れを通り越し、

「アイツ、逆にすげぇ...(脅威のコミュ力...)」

 感嘆まじりに呟いた。

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