ep6 魔王と勇者
くしくも、ミッチーのその謎のバイタリティー、底抜けのコミュ力により、コーロ達と魔物の争いは避けられた。
コーロも、その後すぐに表に出ていき、相手の姿形に恐れを抱きながらも軽く挨拶をし、ミッチーの非礼を詫びた。
そして、簡単に自己紹介と自分達の事情説明をしたのだった。
「そうかあ!兄ちゃん達は異世界から来たのか!ガッハッハ!そうかそうか!」
「アハ、アハハ......(やべ~マジ見た目ハンパなく怖いんですけど...)」
「ちょっと魔物さん!あなたも自己紹介してくださいよ!」
「おっとスマンスマン!オレは魔物の森の守護獣、レオルドだ!」
「守護獣...?てことは、レオルドさんはここを護ってるってことですか?」
「おいおい、そんなかしこまるなよ!オレのことはレオルドでいい!そんなことよりもよ......
「ダークウィザード?」
「暗黒魔導師のことですよ、コーロ様。魔族からはそのように呼ばれています」
「そうなのか?」
「やっぱ兄ちゃんはダークウィザードか!しかも異世界から来た!ガッハッハ!」
「それでレオルドさん。あなたはダークウィザードに何か用があるのですか?」
「そうなんだよ本のネーチャン!」
「よ、用ってなんすか?」
魔物はデカい図体をかしこまらせて、改まって懇願した。
「実は......頼みがあるんだ!」
「え、俺に...っすか?」
「はて?一体なんでしょうね?」
レオルドは静かに語り始める......。
「この魔物の森は、その名前の通り、魔物の棲みつく魔の森だ。
だが、ここの魔物達は、人間達や他の種族達と争うこともなく、静かに暮らしているんだ。
もちろん、時代によっては色々あったがな。
でも基本的には、オレや森の妖精主の下、平穏に暮らしている、いや、いたんだ。一年前まではな」
「一年前まで?」
「ああ、一年前までだ」
「何があったのですか?」
「一年前、それまで続いていた魔族と人間の戦いが、勇者が魔王を倒したことにより終結した」
「魔王と勇者!?」
「レ、レオルドさん!この世界では、すでに魔王は勇者によって倒された、ということなんですか!?」
「ああ」
「ミッチー、どうしたんだ?」
「あ、い、いえ...!そう...ですか」
「といっても、魔物の森は元々、魔王やその配下の者どもとは立場を異にしていたからな。
それに森の妖精と人間とは伝統的に良好な関係にある。
だから、オレ達にとってはそれで特に何が変わるということでも無かったんだ...。ところがだ!」
思い出したように、レオルドは静かに怒りに打ち震え始めた。
「森の妖精主が、何者かに殺されかけたんだ!いや、ほとんど殺されたようなもんだ!
今でも妖精主は眠ったまま意識を取り戻さない。なんとか生命は維持しているが、このままいけば、近い内に息絶えてしまうかもしれない。
森の妖精主は、その魔力により、この魔物の森を保護しているんだ。オレは守護獣として森を守護している。
この保護と守護の二つにより、他の魔族どもから干渉されることもなく、人間と争うこともなく、長く平和を維持して来ていると言う訳だ。
しかし、森の妖精主が死んでしまえば、外部の魔族からの干渉を受け、人間との争いも生じかねない!」
「でも魔王は倒されたんだから問題はないんじゃないんすか?世界は平和になったんですよね?」
コーロは素直に質問する。
「いや、それがそうでもねえらしいんだ。
一部の魔王軍の残党が、俄かに動き始めているらしいんだ。
実際、各地の人間の街で魔族が絡んだ不審な事件がいくつも起きている事は事実だ。
そして、すでにそれは深刻な問題になっている」
「深刻な問題とは、一体なんでしょう?」
ミッチーが訊く。
「ああ。実は、この森の妖精主が殺されかけたことが、それで死にかけていることが、ヘンドリクス王国で問題になっていてな。
元々、へンドリクス王国の王族を始め多くの国民にとっても妖精主は親愛の対象であり、特別な存在なんだ。
ところが、その妖精主が傷つけられた。そしてそれは、どういう訳かこの魔物の森の魔物によって行われた!となってな。
しかも、それをオレが主導したことになっていやがる!
さらに数々の不審な事件もオレ達の仕業ということになっちまった!
それで国を上げて森の魔物達を討伐せよ!あの化物を討て!となってな!
一体どうなってやがるんだ!?...おっと悪いな!つい興奮しちまったぜ」
やるせない様子でレオルドはうつむく。
コーロとミッチーはただ黙って聞いていた。
おもむろにレオルドはむくっと顔を起こすと、フーっとひとつ息を吐き、話を続ける。
「...それでな。近い内、討伐軍が魔物の森を攻めてくることになっている。
しかも、そこにはあの勇者様も加わるって話でな!
いいか?魔王を倒した勇者だぜ?笑うだろ!もちろんオレも強いぜ?
だがな。魔王を倒した勇者様とヘンドリクス王国の討伐軍の連合とやり合うとなると、その先は大戦争になる。
さすがのオレも勇者と国相手に森の魔物全部は守り切れねえ。
となれば、他の森の奴らの多くは殺されちまうだろう。それはあっちゃならねえんだ」
コーロは沈黙のまま何も言うことが出来なかった。
その様子を見て、ミッチーが口を開いた。
「レオルドさん。事情はよくわかりました。ですが、ダークウィザードであるコーロ様に頼みがあると仰いましたよね?」
「ああ、そうなんだ!だが、それを話すには、見てもらいたいものがあるんだが......今からオレについて来てくれ」
レオルドはすっくと立ち上がると、二人に背を向けて、ゆっくり、ずんずんと歩き始めた。
コーロとミッチーはきょとんとして「え?」となる。
「行くって、どこだ?でも、行くしか...ないんだよな?」
「今更怖気付いてもしょうがないですよ?覚悟を決めて参りましょう」
「だよな...」
「さあ、絶望という名の列車に乗って行きますよ!」
「そういうのいらないから...」
コーロはおずおずと立ち上がり、ミッチーと共に、巨体の後について歩いて行った。
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