ep4 俺の運命や如何に!?

 辺りは暗いままだった。

 時間が何時なのかもわからない。

 ポケットに入れていたはずのスマホや財布はなぜか無くなっている。

 いや、そもそもあるのはミッチー以外、服などの身につけている物だけだ。


 俺は、とりあえず朝まで待ってから移動しようと考えた。

 とにかくわからないことが多すぎる。

 頼りになりそうなのはこの面倒臭いノリの本野郎だけだが、うん、コイツに任すのは不安過ぎる!


 確かに、さっきの魔法の事は驚いた。

 それだけでも、ヤツの話を聞く価値はある。

 が、信用もできない。

 ただでさえ、元の世界で裏切られたばかりだし......。


 ダメだ。考えてもキリがない。

 とりあえず、こんな何もわからない場所で暗い中移動するのは危険だ。

 一旦どこかで落ち着いて、明るくなるまで待つのが無難だ。


「ちょっとちょっとコーロ様、一体どこに向かわれるのですか?」


「どこか朝まで落ち着けそうな場所でもないかと思って」


「この辺りで落ち着けそうな場所ですか、う~む...」


「おまえ知ってるのか!?」

「ミッチーです」


「あーもーめんどくさい!じゃあ、ミッチーはここがわかるのか?」


「ここはおそらく『魔物の森』だと思います」

「え、なにその物騒な名前......」


「いえいえ大丈夫ですよ。ここはその名前とは違いそういう所ではありませんから。それに魔物といっても、みんながみんな危険な魔物という訳でもありませんからね」


「そうなのか?」

「ワタシが保証します!」

「はあ。(コイツのこの自信、ひどく不安だ...)」


 とりあえず、俺は付近を散策した。

 森自体は日本でのそれと大差ないが、なんとも言えない霊妙な雰囲気を感じる。


「コーロ様!あれは何でしょう!?」

「ん?あれは...小屋?」


 そう遠くない位置に小屋の影のような物が見える。

 その影を目指ししばらく進むと、軽く開けた場所に出た。

 そこには、子供の頃に林間学校で泊まったことのある、バンガローのようなこじんまりとした古びた小屋が、月明かりの中ひっそりとたたずんでいた。

 

「人はいなそうだな」

「ワタシが確認してみましょう」


 ミッチーは鳥のように窓の隙間から小屋内へスーッと入っていき、確認するやビュンと俺のもとへ戻ってきて言った。

「だ~れもいない」


「稲川淳二か!そーゆーのいらないから!」


「問題ナッシングです!おそらく旅人や冒険者にたまに使われているような痕跡も見受けられましたが、今は誰もいないようです。それにランプも火もあります」


「そうか、なら少なくとも今夜一晩ぐらいなら......まあ、うん、いけそう...かな」


「あら?コーロ様?なんかえらくノリ気じゃないですねぇ?」

「ノリ気も何も......」


 ......そう。俺は、こーゆーのがマジで苦手だった!

 え?虫とか大丈夫なの?

 汚くない?

 拭くものとかないよね。

 バイ菌とか大丈夫?

 

 でも、今夜はもうここしかない......。

 覚悟を決めるしか...!


「ちょっとコーロ様。何を気にされているのですか?もう今夜はここにするしかないのですよ?ここじゃあネカフェなんかないんですよ?そんなんじゃこれからやっていけませんよ?」


「うるさい!現代人ナメんなよ!」


 俺は覚悟を決めて小屋に入った。

 窓から差し込む月明かりの中、二つの椅子と一つの小さい机とがあるだけの四畳半ぐらいの部屋を確認する。


 俺はすぐに、机の上に置いてあるランプに火を灯した。

 夜の小屋にボゥっと灯りがともる。

 俺はランプを手に持ち、部屋にかざした。

 室内を見回すと、そう遠くない過去に誰かが使用したような形跡が部屋のいくつかの箇所に見受けられた。

 

「とりあえず朝までここでやり過ごすか」

「そうですね。ここなら雨風の心配もないですしね」


 俺は椅子に腰をかけ、机にランプを置き、肘をついた。

 ミッチーは机の上にすっと体を落ち着けた。

 

 俺にはこの導きの書に聞きたい事が山ほどあった。

 だが、さっきからずっと、この突発的な事態に混乱しっぱなしで、なんだかもう色々と考えるのも面倒臭くなっていた。

 ほどなくして、俺は急激に眠くなった。(感じたことのない疲労感というか何というか......さっきの魔法のせいか?)

 とりあえず、朝までこのまま仮眠を取ることにした。


「ちょっとコーロ様。寝ちゃうんですか?」

「疲れたし。それに明日のために少しでも身体休めといた方が良くないか?」


「では寝る前に恋バナしましょうよ、コ イ バ ナ」

「修学旅行か!いや林間学校か!?あーもーそんなのどっちでもいいわ!」


「じゃあUNOしますか?」 

「持ってないよね!?てかそのナリでできんの!?もういい!俺は寝る!」


「あら、せっかくの異世界初日の夜ですのに」


 俺はミッチーのウザいノリをシャットアウトし、目を閉じると、すぐにまどろみ始めた。


 ......


「グルアァァァァァァ!!!」


「...な、なんだ!?」

 俺は突如鳴り響いた轟音に目を覚まし、ガバッと身を翻し立ち上がった!

 椅子がガタンと後ろに倒れる!


「おい!ミッチー!今の音はなんだ?」

「...こ、これは、マズイかもですね...」


「マズい?なんかヤバいのか?」

「どうやら、魔物が現れたようです」

「ま、魔物?」


「グルアァァァァァァ!!!」


 辺りの木々はざわざわっと震え、小屋の天井や壁や床はギシギシと軋み、机はガタガタと忙しなく揺れた!


「おいミッチー!さっきよりも近くないか!?」

「お、おそらく、もうすぐそこまで来るのも時間の問題かと......」


「この森は大丈夫とか言ってたよな!?」

「はい!でも魔物の森とはお伝えしてましたよね?アハハハ...」


「アハハじゃねえ!どーすんだよこれ!?」

「ま、まあ悪い魔物とも限らないですから......」


 今更コイツに文句を言ってもしょうがない。

 まずは状況を確認しよう。

 俺は外から見つからないようにランプの灯を消してから、おそるおそる窓越しに外を覗いてみた。

 すると、漆黒の草原のような荒く黒い毛皮に覆われた、ツノの生えた熊のような、五メートル近くある化け物の姿が、夜の森に、小屋のほんの数メートル先に、月明かりに照らされ立っていた!!


「...お、おい!あれどー見ても悪い魔物じゃね!?」


「ま、まあヒトは見かけによらずとも言うではありませんか!」

「ヒトじゃねーし!」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 こうして、突然わけもわからず異世界にやって来た俺は、何の先行きも見えないまま暗黒魔導師として新たな人生が始まりを告げた途端、今度は人生最大のピンチを迎えた訳である。


 俺の運命や、如何に!?


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