ep3 はじめての暗黒魔法

「てゆーか、おい」

「なななんでしょう?」


「ここがあんたの言う異世界だとして、元の世界には戻れんの?」


「はい!それ、気になりますよね~!......えーと、戻れません!」


「戻れない!?じゃあ俺はもう一生ここで暮らすのか!?」


「えっと、その、それについての情報もどうやら破れ落ちてしまったみたいでして......」


「どんだけクラッシュしてんだよおまえは!?使えないPCか!」


「ど、どうせ元の世界でも良いことなんかひとつもなかったから良いじゃないですか~!?ブラック企業で働いて嫌になって辞めて起業してみたら今度は女に唆され金を騙し取られ...」


「おい!?なんでそれ知ってんの!?」


「それについての情報はバッチリ保存されてます!」


「なんだそれ!?...ああもうダメだ。わけがわからない。もう完全に詰んだよ、これ......」


「ちょっとちょっと、そんなふさぎ込まないでください!いいですか?ここはファンタジー世界なんですよ?ノラクエやFFFやってましたよね?あ、ちなみにワタシはFFF派ですけど」


「知らねーよ!おまえのRPGの好みなんか聞いてねーよ!」


「あ、コーロ様はアクションRPG派ですか?つまりですね、ワタシが言いたいのは、今のコーロ様には、特別な力が備わっているということなんですよ」


「特別な力?なに?よくある魔法かなんか?」


「そうです魔法です!なんと、コーロ様は、暗黒魔導師なんです!」


「暗黒魔導師?」

「厨ニ病をくすぐりますよね~!?」


「ならその魔法とやらはどうやって使うんだ?」


「はい。それでは胸の奥に意識を集中してください。あ、最初なので、目を閉じてやってくださいね」 


 俺はもう疑うことにも面倒臭くなり、半ば投げやりに、相手に言われるがままやってみた。


「目を閉じて胸の奥に集中......こんな感じか?」


「そうですそうです。そうすると、どうですか?何か見えて来ませんか?」


 ヤツの言葉どおり、目を閉じた視線の先に何かぼんやりと、奇妙な文字のようなものが浮かんで見えてくる。


「お、おい。何か見えて来たぞ?」


「さすがコーロ様、飲み込みが早い!それでは両手を前にかざしながらその文字を読み上げてみてください!」


 俺は両手を前にかざし、文字を読み上げた。(何の文字だかよくわからなかったが、なぜか俺は読み上げることができた。なぜだろう?)

 すると、胸の奥から全身にかけて不思議な力が漲って湧き上がって来た。


 俺は、前にかざした両手から何かが流れ出るのを感じ、眼を開いた。

 次の瞬間、俺の両手から黒い光の波のようなものが、まるで消防車の放水の如くブァァーッと放出され、それはすぐに角度を変えて、漆黒の噴水とでも言うが如く天に向かってバァァーッと放たれた!


「こ、これは!?」


「はい!これは『ダークナイト』という暗黒魔法です!」


「ダークナイト!?...確かにそう唱えたような......で、これ何の魔法なの!?」


 辺りは黒い波のような漆黒の光に飲み込まれ、月明かりすらない完全な暗闇に包まれた!

 しかし、すぐに黒い光の波はスーッと消えてしまい、再び辺りは元の夜の森の姿に戻った。


「......な、なんだったんだ?」


「その魔法は辺り一面を暗闇に包む魔法です。まだ初めてな上、今ここは夜の森なのでその効果を多少感じづらかったかもしれませんが、これなら騒ぎにもなりませんからねぇ~フフフ」


「これが、魔法なのか......?」


「慣れればもっと効果も威力も持続時間も高められますよ!」


「ほ、本当に異世界転移したのか、俺は......」


「魔法はまだまだ他にもたくさんございますよ?ちなみに先程の『ダークナイト』も、ビギンズからライジングまで三段階ございます!」


「それ映画の話だろ...」


「なんにせよコーロ様、どうですか?すごいでしょう?」

「確かに......すげえな。マジですげえよコレ!」

「はい!すげえです!マジすげえですよ!」


 などと驚嘆したのも束の間。


「なあ、でもこれからどうすればいいの?俺」

「あ...」


「確かに魔法はスゴイけどさ......家もなければ金もなければ仕事もないんだよね?」

「で、ですね...」


「マジ、生きていけんのかな?」

「で、ですよね~」


「......」

「......(笑)」


「(笑)ってなんだよ」

「あ、スイマセン」


 魔法には驚いたものの、何ひとつ釈然としないまま、異世界で暗黒魔導士?となった俺の新たな人生が、今ここに、わけもわからず唐突に始まったのだった。


「そういえば、その本って一体何なの?」

「これは『導きの書』でございます」


「導きの書......で、おまえは本なのか?」

「ワタシは本のようでいて、本ではありません」


「よくわからないんだが...」

「ワタシは本に宿し本の番人、本の守護者でございます」


「その本を護ってるってことなのか?確かになんか大事な本っぽいが......」


「そ れ よ り も !」

「な、なんだよ?」


「ワタシはあんたでもおまえでもありません。ちゃんと名前があるのですよ!?」


「名前?導きの書ではなくて?」


「イイですか?これからワタシの事はミッチーとお呼びください!」


「まさか、導きの書でミッチーじゃないよな」

「ビンゴです!さあ、今から貴方のミッチーです!!」


「おま...いや、ミッチー、まずそのノリなんとかならないの?」

「はい?」


「ダメだ。不安しかねえ......」

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