ep2 異世界転移したけど

 ......

 

「......はっ!」


 俺は目を覚ました。

 視線の先には、見たこともないような満天の星空が広がっている。


 ここは?

 山かどこかか?

 これは神隠し?


 そんな事を思いながら、俺はむくりと身体を起こすと、辺りを見回した。

 どうやら森の中のようだ。

 すぐ目の前には、月明かりに照らされた美しい湖が広がっている。

 不思議と酒はすっかり抜けていて、妙に頭は冴えている。


 ふいに俺はハッと気づく。

 俺の手には、あの本が握られていた。


 この本は一体......。


 いや、それよりもあの女はどこ行った?

 確か、俺にある場所へ行ってもらうとか言ってたよな。

 ということはアイツの仕業なのか?

 ダメだ。さっぱりわからない。


「お~い」


「ん?何か、聞こえた?」と思ったら、突然、手に持っていた本がバタバタバタバタっとせわしなく勝手に動き出し、フワ~と宙に浮かび上がった。


「あ、どうも。コーロ様」


「......え?なに?本が喋った?」


「大丈夫ですか?ワタシですよ、ワ タ シ」

「...その声、公園で声かけて来た女?」

「そうです、そうです」

「......とにかく、わけがわからないんですが」


「いやはや、転移の際に予想以上の力を使ってしまいまして、こんな姿で失礼します」


「えっ、じゃあやっぱ、あんたなのか?その姿って、あんた本なのか!?てか何で本が喋ってるんだ?転移って何だよ!?おい!?」


「まあまあ、とりあえず落ち着いてください」

「いや落ち着けねーよ!わけがわからねーよ!ここ一体どこだよ!?」


「...コホン。えーと、では結論から言いますね。ワタシ達は、異世界転移したんですよ。ほらラノベとかでよくある、流行りの」


「異世界転移?」


「そうです。ここは日本ではありません。ここは異世界です。そう、夢のファンタジー世界なんですよ!」


 コイツ、何言ってるんだ?頭大丈夫か?

 いやでも、本が勝手に宙に浮いて喋ってるもんな...。

 手品にも見えないし...。


 俺は目の前の事、この女(本?)が言っている事、今俺の身に起きている何もかもを受け止められずにいた。


「あれ?おかしいですね~?日本の若者は異世界転移といったものには明るいと聞き及んでおりましたが、はて、これはいかに?」


「ああもうわかった!わからんけど!......で、ここはどんな所で、俺は何でここに連れて来られたんだ?」


「えーと、それはですねぇ......あれ?思い出せない?」

「はっ?」


「何か大事な情報が欠けてしまって......て、あーっっ!!」

「なんだ?どうしたんだ?」


「も、申し訳ございません!コーロ様!その、あの、誠に、申し上げにくい事なのですが......」


「お、おい、なんだよ?」


「それについての情報が書かれたページが、その、ビリっと、破れ落ちてしまいましたー!!」


「はあ?それで?」

「お、おそらく、転移の際かと存じます」


「いや、だから、俺がここに来た理由は?目的は?これからどーすればいいの?」


「えへ、えへへ......」

「おい、おまえ......」


「ま、まあ、せっかくですから、異世界ライフを楽しもうじゃあ~りませんか!?こんな機会、滅多にないですよぉ~!?」


「ふ、ふ、ふざけんなーっっ!!!」


 結局、俺はどんな理由があって、何の目的なのかもさっぱりわからずに、唐突に、この異世界とやらに連れて来られたのである。

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