導きの暗黒魔導師
根上真気
プロローグ
ep1 謎の女
「グルアァァァァァァ!!!」
ツノの生えた熊のような、五メートル近くあるこの化け物はなんだ!?
こんなのアニメや映画でしか見たことない!!
ヤバイ!!どうする!?
逃げられるのかこれ!?
え?死ぬの!?
死んじゃうの俺!?
俺は今、魔物に襲われそうになっている。
俺がこんな世界にやってきたのは数時間前。
人性最悪の日を過ごしたばかりのことだった......。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夜中。
雨上がりの公園。
俺は一人、濡れたベンチに座っていた。
缶ビール片手に、無様に打ちひしがれる俺。
どんよりした目で空を見上げると、雨上がりの夜空は妙に澄み渡っていた。
俺はやにわに、まだ飲み切れていないビールの缶を勢いよく地面に投げつけた。
残っていたビールがビシャっと飛び散る。
缶は小さく跳ねて転がったかと思うと、力無くパタンと横たわる。
......こんな時は、一体どうすればいいのだろう?
誰かに相談する?
いや、まず警察?
弁護士?
そもそも、俺には、親身になってくれる友人もいなかった。
薄っぺらい関係の知り合いがいくらかいるだけだった。
元々、希薄な人間関係しか築けなかった俺だが、就職して以来それはなお拍車がかかっていた。
...けれど、そういうことも含め、変わろうとしていたんだ。
変わろうと、変えようとしていたのに......!
なぜ?なんで?
俺が何をしたっていうんだ!?
ホントわけわからねぇ!!
ふざけんな!
人をバカにしやがって!
最初から俺をハメるつもりだったんだな!
アイツとアイツもグルか!
ちくしょう......
チクショウッ!!!
ああ、マズイ。
ここ最近は思い出さなかった会社時代の事まで色々と頭に浮かんできた。
ブラック企業に入って、耐えられなくなって辞めて、女に唆され起業してカネを騙し取られ逃げられた?
なんだこれ?
俺は何をやっているんだ?
馬鹿なのか?俺は...。
......そうだ。
結局は、ただ流されるまま生きてきた自分自身のせいなのかもしれない。
会社にいた頃もそうだし、会社を辞めてからだってそうだ。
事業のことも全部、お金の管理から何から、結局は彼女に任せきりで、言われるがままにやってきて挙句の果てにはこのザマだ。
笑えもしない。
ある意味、自業自得なのかもしれない。
所詮、俺が何をやったところで、何もうまくいきっこないのだろう。
この先、何をやっても、報われることもないのだろう。
俺なんか、いてもいなくても、どうでもいい存在なのかもしれない。
俺なんか、このまま生きていてもしょうがないのかもしれない......。
......ああ、もう、何の希望も持てない。
死にたくなってくる......。
夜空の月は、いつの間にか雲の中に隠れている。
年老いた街灯は、羽虫にぶつけられながら、弱々しくぼんやりと辺りを照らしている。
俺は、怒りと悔しさと絶望と自己嫌悪とがごちゃ混ぜになった唸るような激情にやられ、アルコールに呑まれるがまま、冷たく濡れたベンチの上で醜く朽ち果てるかの如く、酔い潰れ、眠りに落ちていった......。
......
「あの~すいませ~ん」
......!?
俺は誰かの声にビクッとして、急に目を覚ました。
開いた目にすぐ映ったのは、知らない人間が俺を覗き込むように立っている姿。
どうやら、酔い潰れていた俺に声をかけてきたようだった。
辺りはまだ暗いまま。
俺は酔い潰れからの起き抜けで、視線もよく定まっていなかった。
が、夜の公園の中、眼前に移る人の姿は......黒ずくめの、女?
「良かった。お目覚めのようですね」
「......えっと、あの......何ですか?」
「ワタシは貴方に用があってここにいるのです」
「え?俺に?用?」
完全に狐につままれた状態の俺。
わけがわからない。
「まあまあ、落ち着いてください。スヤザキ様。須夜崎行路様」
女は軽く微笑みながら、念を押すように、言い聞かせるように、俺のフルネームを言った。
過去に会ったことのある誰かなのか?俺は酔い覚めでまともに働かない頭の中の記憶を駆け巡らせたが、何も思い当たらなかった。
「......あの、どちら様ですか?」
「あ、ちなみにワタシと貴方は正式には初対面です。ましてやこんなタイミングですから、そりゃあ驚いて当然ですよね」
「はあ...」
「しかしながら、ワタシはスヤザキ様のことはよく知っております。
その中肉中背の体形も、数か所にクセ毛があり、やや眠そうな目にかかるぐらいの長さの黒髪も、本日は黒いスラックスに白いシャツを召していた事も。
スヤザキユキミチ様、それとも、コーロ様とお呼びした方がよろしいですか?」
「な、なんでその呼び方まで?あんたは一体......?」
「そうですね~説明しようにも説明の難しいことなんですよね。
ですので、まずは、とりあえず用件を単刀直入に申しますね。
これから貴方には、ワタシと共にある場所へと行っていただきます」
「は?」
「まずは『承諾する』と仰ってください」
「え、なに?何て?」
「承諾すると仰っていただくだけで結構ですから」
そう言うと、女はおもむろに一冊の古びた本をスッと俺に差し出した。
思わず俺は、その本を手に取ってしまった。(というより、なぜか手に取らずにいられなかった...)
「なんだこれ、本だよな?......えっと、承諾するって、何のことですか?」
「あっ、今、言いましたね?はい!承諾、いただきました~!」
「え?」
相手の思わぬ反応に俺が驚いたのも束の間。
突然、本は勝手に開かれ、パラパラとめくれ出したかと思うと、開かれたページからピカーッと強烈な光が放たれた!
光は、瞬く間に俺の全身を包み込んだ!
「え?な、なんだなんだ?何なんだ!?」
辺りは光一色で何も見えない。
夢でも見たことのないような光景。
眩い光の中で俺は、宙を舞っているような、空を飛んでいるような、無重力にでもなっているような、不思議な感覚に襲われた。
どうなっている?
飛んでいる?
飛ばされて、いる?
自分に何が起こっているのかさっぱりわからない。
完全に理解の外の事象。
これは心霊現象?
それとも宇宙人にでも攫われているのか?
それとも俺の頭がオカシクなったのか?
それともただの夢か?
神秘的で不思議な光に包まれながら、次第に意識が朦朧としていく。
俺はうつろな意識の中で、遠く光の奥から、音のような、誰かの声が聞こえるような気がした。
ーーー導きのままにーーー
だが俺は、そのまま何かを考える暇もなく、どこかに吸い込まれるように身体を持っていかれ、気を失った。
......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます