雪だるま病です!
「なんなのだ雪だるま病とは!? このような病気、見たことも聞いたこともないぞ!?」
「そんなのオレだって知らないよっ! でも実際みんなこの病気のせいで困ってるんだ! 雪だるまの姿じゃまともに生活も出来ないだろ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。その通りじゃ……! 元々ウィンターは他国に比べて貧しい土地じゃった。だがそこにこの雪だるま病が追い打ちをかけたのじゃ! ましてや、この病は暖かな日の光を浴びることでしか治りはせん。儂らとて好きで他の国を侵略しているわけではないのじゃ!」
「チッ……たしかにそう言われると、スプリングの王サマよりかはスジが通ってるように聞こえるぜ……」
「ねーどうするー? さすがにこんなの可哀想だし、とりあえず私達もウィンターについて、みんなが雪だるまにならなくていいようになるまで戦うの?」
「むむぅ……。これは流石に……どうしたものか……」
目の前に広がるウィンターの町。
そこを歩く人々は、すでにほとんどが雪だるまになってしまっている。
大きく左右に体を揺らして窮屈そうに歩く姿。
凍った道で足場を滑らせれば、その丸い体のせいでぐるぐると転がり、壁に激突する有様だ。
幸い、雪だるまの体はクッションにもなっているらしく怪我などはしていないが、はっきり言ってどこからどう見てもとんでもなく大変そうだった。
「わかってくれたかのう? 儂らとて、この雪だるま病さえなければ戦争など起こしたりはしなかった! 全ては雪だるま病からウィンターの民を救うため……! 儂らには、ミセリアの持つ疫病神の力と共に、雪だるま病を治す日差しを手に入れる他に道はないのじゃ――!」
いかにも心苦しいという様子で私達に語りかけるボルゲン王。
私がもしスプリングのヨルゲン王の〝アレな姿〟を知らなければ、もしかしたら首を縦に振っていたかもしれない。
だが……すでにボルゲン王のアウトな野心が垣間見えている以上、やはりウィンターの侵略を肯定することは出来ない。
しかしかといって、雪だるまになって苦しむウィンターの人々を見捨てるわけには……。
「待って下さいっ!」
「ユレルミ?」
だがその時。
必死に悩む私達をよそに、すっぽんぽんのユレルミが私の背負う櫓から身を乗り出して声を上げた。
「待って下さい! もしかしたら、僕の力でなんとかできるかもしれませんっ!」
「ふぉ? なにを言うかと思えば……。残念ながら、ご覧の通りウィンターはすでに〝あまりにも貧しい〟。スプリングやオータムとは違い、ここは君の力が役に立つような国ではないのじゃよ?」
「ユレルミ……なにか考えがあるのか?」
「はいっ! でもその前に、一つだけ王様に確認したいことがあるんです」
「儂に確認したいことじゃと?」
櫓からぷりりんとした小さなお尻を突き出して地面へと降り立ったユレルミは、ウィンターの過酷な寒さもものともせずに、すっぽんぽんのままボルゲン王の前に立ってそう言った。
私はそのユレルミの行動に驚きつつも、かつての彼からは考えられない程に凜々しい横顔に釘付けになる。
「王様はさっき、雪だるま病さえなければ戦争はしなかったと言いましたよね? なら雪だるま病をなんとか出来れば、ミセリアさんを使って他の国に攻め込んだりするのを止めてくれるんですか?」
「えっ……? う、うーん……それは、まあ……? そうかもしれんけど……だが、このような誰も知らぬ恐ろしい病を、そうそうなんとか出来るわけなかろうっ!?」
「待てよ……? まさかユレルミは……!?」
「今ここで約束して下さい……! 雪だるま病をなんとかしたら、もう戦争はしないって!」
「わ……わかったわかったっ! 約束する……っ! 約束すればよいのじゃろ!?」
ユレルミのそれは、有無を言わせぬ言葉だった。
ユレルミの迫力に押されたボルゲン王は、ユレルミとは相当離れているにも関わらず僅かに後ずさり、一も二もなく頷くしかなかった。
横で見ている私などは思わず胸がドキドキと高鳴り、なんだか……全身に鳥肌がたつような、背筋がゾクゾクするほどの痺れが駆け上ってきて――。
え……?
っていうか、ユレルミってもしかして……物凄くかっこいいんじゃ……。
今まではずっと綺麗とか、かわいいとか凄く優しいとか、よくわからないけど彼の股間に注意がいってしまったりとか……そういうのばかりだったのに……。
真実の書の内容を知ってしまった後だからなのか、私はいつものように声を上げることも出来ず、ただモジモジと凜々しいすっぽんぽん天使となったユレルミを見守ることしか出来なかった。
「お、おいユレルミっ! お前、一体なにをするつもりなんだよっ!?」
「僕……ずっと勘違いしてたんです。僕の力は、みんなに迷惑をかける力だって……みんなの大切なお金や持ち物を奪うことしか出来ない力だって……そう思ってたんです……」
瞬間、振り向いたユレルミの決意に満ちた眼差しが私を見つめる。
そのあまりにも透明で、それでいて力強い瞳に射貫かれた私は、息をすることすら忘れてユレルミを見つめ返した。
「でも違いました……。僕の力は、誰かの役に立つこともある。幸せも不幸も、貧乏も……どんな力も、結局は使う人の心次第なんだって……。エステルさんが、それを僕に教えてくれたから!」
「ユレルミ……」
「見てて下さいエステルさんっ! 僕の力はこれからもずっと……みんなのために使いますっ!」
ユレルミはそう言うと、一際高くなった王の舘から雪に包まれた街中へとすっぽんぽんのまま進み出る。
それと同時、彼のふんわりとした金色の髪が風もない中で静かに逆立ち、すっぽんぽんのユレルミの体から、目も眩むほどの銀色の輝きが放たれたのだ。
「貧乏神ユレルミの名において命じる――! ウィンターに住む全ての人から……〝雪だるま病〟を没収しますっ!」
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