第九章 なんとかしたいです!
ウィンターは大変でした!
ウィンター。
それは西のスプリング、東のオータム、南のサマーと並ぶ北の国だ。
険しい山脈と氷に閉ざされた大地は麦も育たず、水すら満足に手に入らないらしい。
そしてウィンターに住む人々は、そんな極寒の大地で僅かな太陽の光と生きる糧を巡って争い、いくつもの小さな勢力に分かれてなかなか団結することもない。
国境を接するスプリングとオータムもウィンターのことなど相手にせず、交易で得られるような物もないので、国境を閉ざして関わらないようにしてきた。
そして――。
「ふぉっふぉっふぉ! よく来たよく来た! まさかミセリアが本当に友達を連れて帰ってくるとは、この儂もびっくりじゃ!」
「ただいま、王様っ! ちゃんと貧乏神と友達になって帰ってきたんだ!」
「初めまして、貧乏神のユレルミです」
「スプリングから追い出されたただの騎士! エステル・バレットストームだ!」
「ユレルミたんを守る愛の戦士ッ! ジローッ!」
「じゃーん! バラエーナだよ!」
「そうかそうか! ユレルミ君だけでなく、お前達もミセリアと共にウィンターに力を貸してくれるというのじゃな? ミセリアに加えてお前達の力も加われば、正に鬼に金棒! 絶対勝利間違いなしなのじゃ!」
険しく連なるウィンターの山間。
そこに現れた小さな町とテントを組み合わせた集落に通された私達は、ミセリアと共にウィンター王の〝ボルゲン〟と会っていた。
ボルゲンはそれなりに高齢だったが、人好きのする笑みの裏には鋭い覇王の気配も窺える。穏やかな雰囲気と覇王っぽいなんか悪そうな雰囲気が同居する――……んんんん!?
「な、なんだろうな……? なぜだか知らんが、このウィンター王と話していると、〝猛烈に嫌な予感〟が湧き出てくるのだが……スプリングのヨルゲン王とびみょーに……というか途轍もなく名前が似てるからだろうか?」
「奇遇だな変態女……。実は俺も同じ気持ちだぜ……っ!」
「あ、あの! 僕たちはまだ皆さんと一緒に戦うって決めたわけじゃなくて……。というか、その……なんだか王様とは〝前にも会ったことがある〟ような気がするんですけど……」
「気がするとかじゃなくて、スプリングの王様にソックリだよこの人!? 着てる服が違うだけで、話し方も顔も一緒だしっ! もしかして双子なの!?」
「失敬なっ! 福の神を独占し、私腹を肥やすことだけしか能のないスプリングのヨルゲンなどと儂を一緒にするでないっ! 儂はこの不幸にまみれたウィンターをミセリアと共に救い、やがては福の神も手に入れてこの〝儂が世界で一番幸せに〟……グッフッフ!」
あ……これはダメだ。
「アウトオオオオオオッ!? だ、だめだユレルミたん! やっぱりこいつあのスプリングのヤベェ王サマと同類だッ! 双子っていうかもうドッペルゲンガーだろこれッ!?」
「はわわ……っ!? どうしましょうエステルさん……? お話しでなんとかなるなら、そうしようと思ってたんですけど……これじゃあ……っ」
「あわわ……っ! お、落ち着くのだユレルミっ! まだ私達はウィンターの全てを見たわけではない! この〝ヨルゲン王Mk.2〟みたいなウィンター王だけを見て、ウィンターの全てを決めつけるのは早計だ! きっとそうだ! うむっ!」
「というか、そんなにスプリングの王様とオレたちの王様って似てるのか?」
「似てるなんてもんじゃないよーっ! もう絶対にアウトな雰囲気ビシバシ出てるもんっ!」
「そ、そうなのか!? でも王様はオレの命の恩人だし……」
いやいやいやいや、そういう問題ではないぞこれは!?
大体スプリングのヨルゲン王も、ハッピー様の話や私の幼い頃の記憶では立派な王だったのだ。
きっと、人はほんの些細なことで変わってしまうのだろう。
ヨルゲン王の場合は、ハッピー様の与える幸せで。
そしてこのボルゲン王も……よくわからんがきっとなんか嫌なこととかあって。
まあとにかく……ミセリアにとってボルゲン王が恩人でも、それと私達がウィンターに手を貸すとかそういうこととは別の話なのだ。
「それで、お前達はウィンターの惨たらしい窮状を知りたいと言っていたのう? 儂らとしても、今まで誰も見向きもしなかったウィンターの民の暮らしを知ろうとしてくれるのは素直にありがたいことじゃ。ぜひその目で確かめていってくれっ!」
「あ、ありがとうございます……王様」
「ならば、ユレルミは私の櫓の中に。ウィンターの寒さはバラエーナがいた雪山の比ではない。ちゃんとぬくぬくしておくのだ!」
「はいっ……ありがとうございます、エステルさんっ!」
「チッ! イチャイチャしやがってよぅ……! んじゃま……早速その不幸の国ってのを見せて貰おうじゃねぇかよ!」
「わーい! 私寒いのだーい好き! いこいこっ!」
ボルゲン王に促された私達は、早速集落でも一際大きな石造りの建物から外へと向かった。
先ほどはバラエーナと共に上空から見ただけだったのだが、果たして実際に地上から見るウィンターの街並みは、それはもう本当に……。
「って……な、なんだよこりゃ……!?」
「う、うそ……!?」
「はわ……はわわ……!? こ、これが……ウィンターの……!?」
「は……?」
大きく開けた銀世界。
深い雪に覆われたその光景に、私達は揃って驚愕の声を上げた。
なぜなら……そこに見える全てのウィンター人はみな、〝巨大な雪だるま〟のような姿をしていたからだ!
「あ、あっるぇええええええええええ!? なんか私の想像してた〝大変〟とか、〝不幸〟とかと違うんだけどこれっ!? な、なにがどうなってみんな雪だるまにっ!?」
「これが今のウィンターさ……! 数年前から、ウィンターではこの恐ろしい病気……〝雪だるま病〟がどんどん広がってるんだよ……! この病気を治すには、ウィンターを脱出して暖かい太陽の光に当てるしかないんだっ!」
「なんだそのめちゃくちゃな病気!?」
ゆ、雪だるま病だと!?
驚く私達に向かって放たれたミセリアのその言葉に、私は思わず困惑の叫び声を上げたのだった――。
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