ウィンターに行きます!


「ミセリアがウィンターの希望? だが、そもそも君に辛く当たってきたのはウィンター人ではないのか?」


「ミセリアさんは、それでもウィンターの人のために疫病神の力を……?」


「ああ、そうだよ。アンタやユレルミの言う通り、生まれてから今までオレをボコボコにしてきたのはウィンターの奴らだ。オレも昔はアイツらが大嫌いだった……っていうか、今でも好きってわけじゃないと思う」


「じゃあなんでそんな人たちのために頑張ろうとするの? もし私なら、きっと怒ってみんな凍らせてると思うんだけどっ!」


「〝王様〟が教えてくれたんだ……不幸なのはオレだけじゃないって。そもそもウィンターに生まれた時点で、ウィンター人はみんな他の国の奴らよりずっと貧しくて、不幸なんだって……」


「ウィンター王が……」


 なるほど……。


 ミセリアの話を聞いた私は、食べ終わった焼き魚の串を焚き火の炎に放り込むと、腕を組んで考えを巡らせる。


 つまりミセリアはウィンターでもずっと迫害されていたが、そこをウィンター王と出会い、より恵まれた他の国の幸福を奪うように諭されたということなのだろう。


 となると、ミセリアに他国への侵略を諦めて貰うには、まずウィンター王と話してみる必要があるのか?


 ふむ……ウィンター王。

 ウィンター王か。


 うむ……。


 …………。


 うーん?


「あれ……? ウィンターに王なんていたっけ……?」


「ぶっ! おまっ……四つしか国なんてねぇのに、それすら覚えられねぇのかテメェは!? どんだけ脳筋なんだよ!? バカ! 変態!」


「なっ!? き、貴様ぁああああッ! 馬鹿はともかく変態は貴様の方だろうッッ! ? ならば貴様は分かるのか!? ウィンターの王が誰なのかっ!? 今すぐ言ってみろッ!」


「あったりめぇよッ! オレはスプリング以外の国もド派手に荒らし回った大盗賊団の元頭だぜ? そんなもんすぐに…………あれ? だ、誰だっけ……?」


「ぷぴゃああああああっ! ほれ見たことか! 貴様もわからんのではないかッ!?」


「えー? 二人とも知らないんじゃーん! 私はドラゴンだから勿論知らないし……ユレルミ君も知らないよね?」


「あ……はい。でも僕が通った学校だと、ウィンターは国内でも小さな勢力に分かれていて、決まった王様はいなかったと……」


「そうそう、ユレルミが正解だよ。オレが物心ついた頃、今の王様が一気に勢力を拡大してウィンターを統一したんだ。ウィンターのことなんて他の国は興味もないから、そういう話も伝わってないんだろ」

 

「やっぱりそうだった! フ……フハハハハハハハッ! どうだジロー! 今まで散々私を馬鹿だ脳筋だとケチョンケチョンに言っていたが、どうやらどちらが真の馬鹿かこれでハッキリしたようだなァッ!?」


「て、テメェエエエエエエエエッッ!?」


「で、でも……今のウィンターに新しい王様がいるとかそういうのを知らなかったのは二人とも一緒なんじゃ……(モゴモゴ)」


 ミセリアのその言葉に、私はぐっと拳を握りしめてジローに勝者の笑みを向ける。


 そしてやはり私の記憶に間違いはなかった。

 本来、ウィンターに決まった王などいなかったのだ!


 断じて私が馬鹿だとか、授業中いつも寝てたから覚えてないとかそういう話ではないのだっ!


「王様は、ウィンターの辺境で閉じ込められていたオレを助けてくれたんだ……。そしてオレに言ったんだ。オレたちに不幸を押しつけて自分たちだけ幸せになってる奴らを、一緒にボコボコにしようって……」


「そうだったのか……。確かにウィンターは一年中極寒の地……人々は常に飢え、豊かな暮らしなど望むべくもないと聞いているが……」


「ならなんでみんなそんなところに住んでるの? 隣のスプリングやオータムは豊かなんだから、そっちで暮らせば良いのに」


「そいつは無理な話だぜ……オータムもスプリングも、そうやって逃げてきたウィンターの奴らを何度も追い返してやがる。どっちの国も、自分たちのことで一杯一杯ってわけだ」


「だからウィンターの王様は、ミセリアさんの疫病神の力で他の国を……」


「ああ……。オレはウィンターの奴らも嫌いだけど、他の国の奴らはもっと嫌いだ……! 自分たちだけ幸せになって、ウィンターの奴らが幸せになるのは許さない……。オレが疫病神になったのだって……他の奴らがウィンターに生まれたのだって……自分で選んだわけじゃないんだぞ……っ」


「…………」


 固く拳を握りしめ、ミセリアは言った。


 確かにミセリア言うことはもっともだ。

 スプリングもオータムも、今この時もウィンターとの国境は固く閉ざされている。


 しかしそれが通用していたのは今までウィンターが貧しく、弱かったからだ。


 疫病神の力を持つミセリアを見出し、分裂していた国を一つに纏め上げる王も現れたとなれば、オータムのように劣勢に立たされるのは当然だろう。


 だがその時。

 私の脳裏にふと形にできない考えがよぎった。


 それはこう……なんだろう……。

 

 もしかしなくても私達は、今とても重要な位置にいるのではないだろうか?


 だって私達はスプリングの運命を握る福の神のハッピー様と友達で、たった今ウィンターの希望になっている疫病神のミセリアとも悪くない感じになっている。


 そしてなにより、私の隣には……。


「あの……エステルさん……」


「ん? 何か言いたいことがあるのか?」


「僕たちも、一度ウィンターに行きませんか……? 僕……ちゃんと自分の目で見てみたいんです。スプリングのことも、ウィンターのことも……!」


 ユレルミはその大きな丸い目を私に向け、はっきりと自分の意思でそう言った。


 そうだ。

 私達にはユレルミがいる。


 誰よりも優しく、どんなに苦しくても自分の心に正しさを問い続けてきた、私の大好きな少年が――。


「あの……やっぱりダメですか?」


「そんなことあるもんか……! もちろん賛成だ! そしてやっぱり君は私の最高のこ、こ……こここ……こいこいこいこい……こ……ぃ……び、と……だなッッ!?」


「エステルさん……っ!」


「えー!? エステルってば、なんでそんな大切なところで小声になるの!? もう一回ちゃんと言った方が良いって! 今のとこ、とっても大事なシーンだと思うのっ!」

 

「む、無理だッ! もう一回なんて絶対に無理ッ!」


 なんとか込み上がる思いを口にすると、私は顔を真っ赤にして再び縮こまる。


 だがそんな私の視界の中。


 初めて私と会った頃の気弱で儚いユレルミのすっぽんぽん姿が、今のすっぽんぽんの彼に重なって消え……私は思わず嬉しくなって、たしかに笑みを浮かべていた――。


「ユレルミもウィンターに来てくれるのかっ? それならオレが全部案内するよ! 実際のウィンターを見れば、オレ達がどれだけ苦労してるのか、きっと分かってくれると思うんだっ!」


「オータム、サマーと来て次はウィンターかよ? まさか、たった数日で全部の国を制覇しちまうとはなっ!」


「うむ! どうせ今の私達はどこの国の者でもないのだ! この機会に行けるところは全部行ってしまうとしよう! ハッハッハッハ!」


「はいっ! ありがとうございます、エステルさんっ!」


 煌々こうこうと燃え盛る焚き火の炎と、その炎に照らされた満天の星空の下。


 ついに最後の神のスキルを持つミセリアとも友達になった私達は、次の目的地を四国最後の地……北のウィンターへと定めたのだった――。


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