第五章 戦争を止めに行きます!

戦争ですか?


 父上。母上。


 お元気ですか?

 私は元気です。


 私はつい先日陛下から与えられた勅命を果たし、王都に帰還しました。 


 父上と母上は、今頃新大陸で大魔王と戦っている頃でしょうか。

 そういえば、先日お二人から送って頂いた魔王のハンマーは、私の趣味ではなかったので同僚にプレゼントしました。


 私もいつか父上と母上のように、スプリングだけでなくこの世界を守ることができるような立派な騎士になれるよう、精進を重ねていくつもりです。


 そして今回は、私から父上と母上に大事な報せがあるのです。

 きっと驚くと思います。



 好きな人が、出来ました。



 彼も私のことを好きだと言ってくれていますし、同衾も済ませた仲です。

 彼は私よりも年下ですが、とても心優しい立派な人……というか天使です。


 時折すっぽんぽんになりますが、父上と母上ならすぐに慣れると思います。

 それと、もしかするともうすぐ孫の顔をお見せすることもできるかもしれません。

 

 もちろん彼との赤ちゃんです。

 どうか、次の手紙を楽しみにしていてください。


 エステル・バレットストームより。



 ――――――

 ――――

 ――



「よし……これでいいかな……!?」


「なにを書いているのですか?」


「はい……私にも大切に想う殿方が出来ましたので、まずは両親にその報告をと――って姫様ッッ!?」


「今日もユレルミ様とお話ししようと思っていたのですが……エステルのところにもいらっしゃらないのですね」


「はわわ……! まさか姫様とは気付かず、大変な失礼を! しかも昨晩は勢い余って城を破壊してしまい……!」


「ふふっ。昨日の夜のことには私も驚きました。でもとても情熱的で、まっすぐな告白でしたよ、エステル」


 ユレルミとの夜から一夜明け。

 自室で両親に手紙を書いていた私の背後から、ひょいと覗き込むようにしてハッピー様が現れる。


 手紙に集中していた私は思わず驚きの声を上げてしまったが、ハッピー様はそんな私に向かって柔らかな笑みを浮かべていた。


「でも、私にはわかっていました。エステルとユレルミ様が、お互いにとても強く想い合っていることは……」


「そ、そうだったのですか!?」


「ええ。だって私が初めて貴方がたを見たのは、お二人がお父様の前で抱き合っている姿だったのですよ? それはもう……言葉では言い表せないようなお顔をされていました」


「な、なん……ですと……!? まさか、あのような姿を姫様に見られていたとは!?」


「ですから、昨日は申し訳ありませんでした。ユレルミ様をエステルから引き離すようなことをしてしまって……。きっと、エステルは嫌でしたよね?」


「そ、そそ、そんなことは……!」


「けれど、私がユレルミ様とお会いすることを楽しみにしていたのも本当なのです。だから一日くらいはいいかなって、少しだけお借りしてしまいました。ごめんなさい、エステル」


 ハッピー様のその言葉に、私は恥ずかしさから顔を真っ赤にして俯く。


 結局、昨日はあの後も大騒ぎだった。

 そもそも城の上層階は私が破壊してしまったし、私渾身のユレルミへの返事は、城どころか王都全域に轟いていたのだ。


 ジローなどは『誰がそこまでやれっつったゴルァァァ!?』と息巻いて襲いかかってきたが、ジローごときにやられる私ではないので当然返り討ちにした。


 だが問題だったのはそのくらいで、バラエーナも大騒ぎで祝福してくれたし、陛下もおおらかに笑って喜んでくれていた。


 残念ながらユレルミの部屋が破壊されてしまったので、彼との〝二度目の同衾〟は達成できなかったのだが……。


 ふ、フフフフフフ……ッ。

 フハハハハハハッ!


 私とユレルミはもう……こ、ここ、こい……こいびと同士ッッ! なのだッッ!


 同衾などきっとこれから何度だって出来るだろうし、もしかしたら……く、口づけとかもしてしまうかもッッ!?


 ぴゃあああああああああ!

 興奮してきたああああああああああああああああああ!?


 ユレルミユレルミユレルミユレルミ好きだ好きだ好きだ好きだ大好きちゅっちゅちゅっちゅちゅっちゅ!


「あ、あの……エステル? お口から涎が……」


「はぁうっ!? こ、これは……大変失礼しました……!」


 しまったしまった。いかんいかん……!

 私としたことが、ハッピー様の前でつい妄想の世界に!?


「でも、どうか気をつけて下さいね。私もお父様もエステルとユレルミ様の味方ですけれど……城内には、そうは思っていない方もいらっしゃいますから……」


「え……?」


「私は最近思うのです……。スプリングは大きくなりすぎました。福の神の力を持つ私が良かれと思ってやってきたことが、もしかしたら……そうではなかったのかもしれないと……」


「姫様……」


 その時の私には、ハッピー様のその言葉の意味がさっぱりわからなかった。


 だが……ハッピー様の語った不安は、すぐに形となって私とユレルミの元に届くことになった。


 西の大国オータムによる、スプリングへの侵攻。


 そして、その侵攻を貧乏神である〝ユレルミの力で阻止しろ〟という、大臣からの命令となって――。



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