貧乏神なんです


「すみませんでした……僕の葉っぱ、一緒に探させてしまって……」


「き、気にするな! それで、本当にその葉っぱで良かったのか?」


 突然現れた少年の力によって、ゴロツキ共は一人残らずすっぽんぽんになって逃げていった。

 町に残された私は、そのままどこかに飛んでいってしまった少年の葉っぱを探す手伝いを申し出たというわけだ。


「はい、これで大丈夫だと思います……ありがとうございました」


「礼を言うのは私の方だ。君には危ないところを助けてもらった……だから、その……なんだ……」


 全裸の少年はそう言って、私に向かってぺこりと頭を下げる。

 ――のはいいのだが、その少年の可愛らしい仕草を見ているだけで、なぜか私の全身からどっと汗が噴き出してくる。


 日の光を浴びて銀色に輝くふわふわの髪の毛。

 猫とリスとウサギの愛らしい部分を全て足したようなくりくりの瞳。

 まるで人を疑うことを知らないかのような、純真な眼差し。

 そして傷一つない滑らかで柔らかそうな肌……と、股間の葉っぱ。


 目の前に立つ全裸の少年は、もしこれで背中に羽でもついていようものなら、〝天使です〟と言われても納得できるような容姿と雰囲気をまとっていた。


「うっ……あ~……そう、そうだ! 名乗るのが遅れてすまなかった。私の名はエステル・バレットストーム。由緒正しきこの国の騎士だっ!」


「ユレルミです……」


「ユレルミ君か……ならば改めて、ありがとうユレルミ。君のお陰で助かった!」


「そんな……僕はなにも……」


 うぁ……っ!? 

 まただ……この子に上目遣いで見つめられると、思わず目を逸らしてしまう。


 なんだ……?

 なんなのだ、この胸の高鳴りは……っ!?


 こんな気持ちは初めてだ……。

 まるで〝全裸の美少年〟が目の前に立っているかのように……。


「って、君がすっぽんぽんなのだから当たり前だろう!? なぜ君は全裸なのだ!? 恥ずかしくないのか!?」


「う……ごめんなさい……。実は僕、服を着れなくて……」


「服を? それはもしや、先ほど君が見せた力と関係があるのか?」


「はい……実は僕、貧乏神なんです」


「……貧乏神のことなら私も知っている。だが、それと君が全裸であることとどんな関係があるのだ?」


「僕の力は、さっきみたいに他の人の財産を奪います。でもそれと同じで、僕も財産を持つことができないんです。僕が服を着ても、すぐに脱げてしまって……」


「そ、そうだったのか……! 貧乏神の力にそんな副作用が……」


 目の前で申し訳なさそうにしゅんとするユレルミに、私は自身の失言を後悔した。

 まさか、彼がすっぽんぽんであることにそんな重い理由があったとは……。


 だが、私はそこでふとユレルミの股間に視線を向ける。

 断っておくが、決して彼の股間が気になって常にチラチラ見ていたわけではない!


「では君のその……えーっと……〝そこの葉っぱ〟は大丈夫なのか?」


「いえ……実は、この葉っぱも結構すぐになくなっちゃうんです。えへへ……」


「えへへ……じゃあない! な、なぜそこで頬を赤らめる!? しかもちょっと嬉しそうだぞっ!? 変態か君はッ!?」


 私の指摘に、ユレルミはもじもじと身をよじらせながら頬を桃色に染める。

 いや、ちょっと待て。その反応はおかしくないか!?


 かわいいけどっ!

 かわいいけど絶対に間違っているだろう!?


「でも不思議です……普通の人なら僕の近くにいるだけで〝貧乏になってしまう〟はずなのに。騎士様は平気なんですか?」


「フッフッフ……よくぞ聞いてくれた! なにを隠そう、私はスキル〝魔力完全遮断〟を持っているのだ! だから貧乏神の力も私には通じない! 君の捜索に私が選ばれたのもそれが理由だ!」


「わぁ……! そうだったんですね。すごいです、騎士様っ」


「そうだろうそうだろう! だからな、君にはぜひ私と一緒に――」


 ガシャン。


 だがその時。

 私の胸当てが勝手に外れて地面に落ちた。


「あれ……? おかしいな、留め具を締め忘れたかな……?」


「あっ! き、騎士様っ」


「ひえっ!?」


 瞬間、ユレルミの可愛らしい悲鳴が辺りに響いた。


 胸当てが外れたのを始まりに、私のマントや腰のベルト、さらには服を止める肩紐とかパンツとか、とにかくもろもろ全部が緩み始め、私の体から勝手に離れようとし始めたのだっ!


「ぬわーーーーっ!? ば、馬鹿なああああああ!? まさか、これが君の!?」


 じょ、冗談だろう!?

 こんなふざけた現象、貧乏神の力以外には考えられんっ!

 

 まさか、私の〝魔力完全遮断〟が通じないのか!?


「はわわ……っ! ご、ごめんなさい騎士様っ。僕みたいな、みんなに迷惑をかける貧乏神のせいで……っ」


「あっ!? ま、待って! 待ってくれ、ユレルミ――っ!」


 慌てふためく私に、ユレルミは目を潤ませてその場から走り去ろうとする。


 私は尻餅をついて外れそうな服を押さえ、小さくなっていくユレルミのぷりぷりのお尻に必死に手を伸ばしていた――。


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