異世界貧乏神~スキル貧乏神で一文無し!貧乏神だから全裸だし、パーティーメンバーまで全裸になってしまうので追放されました。特に戻ってこいとは言われません!
ここのえ九護
第一章 貧乏神は大変です!
騎士様に会いました
「〝貧乏神〟だぁ?」
「そうだ。この辺りにいると聞いたのだが……なにか心当たりはないか?」
時刻は正午前。
ここは国の外れに位置する村の薄汚い酒場。
なんか臭いし、さっきから他の客が私をジロジロ見てくるしで気持ち悪い。
出来ればこんなところ一刻も早く出たいが、これも任務だ。がまんがまん……。
「話の前に、注文の一つでもしたらどうですかい?」
「む……それもそうだな。えーっと……なら、水を一つ頼む」
すると店主は鼻を鳴らし、カビ臭い濁った水をグラスに注ぐと、嫌な感じの笑みを浮かべる。
「貧乏神ねぇ……どっかで聞いた気もしますが。へへ……最近どうも物忘れが激しくてね。騎士様が金目の物を恵んで下されば、思い出すかもしれませんぜ……?」
「……? 金なら払っただろう。しかもこんな泥水に」
「それじゃ足りねぇって言ってんですよ。その貧乏神っての、国王からの命令で探してんだろ? 金さえ貰えればすぐに教えてやってもいいんだぜ?」
「なんだと……!? 人の足元を見るとは……! 私を馬鹿にしているのか!?」
「そうカリカリしなさんなって、地獄の沙汰も金次第って言うじゃねぇか」
「な……っ!?」
なんなのだこの酷いぼったくり店は!?
客に対する礼儀も作法もあったものではないっ!
「ふざけるなっ! 話は終わりだ、私はこれで失礼するっ!」
迷いもせずに踵を返すと、私は酒場の出口へと向かって歩き出した。けど――。
「へへ……せっかく遠路はるばるこんなとこまで来たんです。もっとゆっくりしていってくだせぇ」
「アンタみてぇな上玉……この町からタダで帰れるわけねぇだろ……?」
「ヒヒッ! 鎧や剣だけじゃねぇ、〝中身の方も〟高く売れそうだぜぇ!」
「身ぐるみ剥いだら〝お楽しみ〟の時間ってわけだ……! んほぉ~この女騎士たまんねぇ!」
「な、なんだ貴様ら……!? 目つきがおかしいぞ!? なにを企んでいる!?」
そんな私の歩みを阻むように、店内にたむろしていた大勢の男たちが周囲をぐるりと取り囲む。
「この状況でまだ分からないのか? アンタ、そんな世間知らずでよくこんな辺境まで来れたな?」
「ぐっ! ま、まさか……この私に〝
「ヒヒヒッ! そうそう、そういうこと! きっちり全員相手して貰うぜぇ? 世間知らずの女騎士サマよぉ!」
うわあああああああ!?
やっぱりそうだった! やっぱりそうだった!
なんて悪い奴らなんだ!
破廉恥ダメ! 絶対ッッ!
話には聞いていたが、この辺りの治安が悪いというのはどうも本当らしいなっ!
「誰がそんなことするか馬鹿ッッ! いいだろう……! ならば貴様ら全員、ここで死ねええええええっ!」
もう怒ったぞ。
こいつら絶対に許さんっ!
私は焦りと恥ずかしさからドキドキと胸を打つ鼓動を整えると、腰に下げた〝双剣〟を抜き放ち、野獣と化した男たちの群れめがけて突撃した――。
――――――
――――
――
私の名はエステル。
エステル・バレットストーム。
大陸を四分する大国の一つ、〝スプリング〟の筆頭騎士を務めている。
そしてこれは自慢なのだが、私は一人で敵の軍勢を滅ぼしたこともあるし、巨大なドラゴンも百頭以上討伐している。このようなゲス共相手に屈するような生半可な鍛え方は断じてしていないッッ!
「ふんっ! またつまらぬものを斬ってしまった……! しかしここまで来てこの調子とは。先が思いやられるぞこれは……」
真昼の太陽の下。
爆発、大炎上する酒場の前。
鮮血に濡れた剣を布で拭うと、私はたった今〝滅ぼした〟酒場を振り返る。
「ひ、ひでぇ! この女、俺の店まで吹っ飛ばしやがった! 鬼! 悪魔!」
「悪魔はどっちだ!? この私に〝破廉恥なこと〟をしようとしたのは貴様らだろうっ!? まだ命があるだけありがたいと思うのだなっ!」
「ウボアーッ!?」
よしよし、今度こそ悪は滅びたな。
私は酒場の店主に〝とどめ〟を刺して空の彼方に蹴り飛ばし、荷物を手に燃えさかる酒場をあとにした。
先程も話していたが、私は国王陛下の命を受けて〝貧乏神〟を探している。
正確には、貧乏神という名の〝チートスキル〟を所持した人間を……だ。
今、私の祖国スプリングは邪悪なドラゴンの脅威に晒されている。
王国に迫る危機を打開するには、一刻も早く貧乏神のスキルを持つ人物を探し出さねばならない、のだが――。
「待ちやがれこのクソ女……ッ! 俺たちのシマで散々好き放題暴れやがって、タダで帰れると思ってんのか、エエッ!?」
「ぴえっ!? な、なんだ貴様ら!? まだこんなにいたのかっ!?」
「へっへっへ……今度は町の奴ら全員が相手だ! いくらテメェでも、この人数じゃどうしようもねぇだろッ!? ギャハハハ!」
酒場から離れた私の周囲には、いつのまにやら大勢の人だかりが出来ていた。
ざっと見た感じ数百人くらいか。
それぞれ手には武器を持ち、私をぐるりと取り囲んでいる。
その上、どいつもこいつも私を見る目が色々と〝アレ〟だ!
こいつら……あれだけやられてまだやる気なのか!?
どんだけ私と破廉恥なことがしたいんだっ!?
百を超える汚らわしい視線に耐えきれず、私は思わずめまいを覚える。
もうなんかとにかく面倒だ……このまま町ごと消し飛ばしてやろうか!?
そう考え、私は再び愛剣に手を伸ばす。
このまま私が剣を抜けば、次の瞬間にはこいつら全員空に浮かぶお星様になっていただろう。だが――。
「あの~?」
その時だった。
野蛮で破廉恥な男共を肉片に変えてやろうと一歩踏み込んだ私の耳に、まるで鈴の音のような少年の声が響いたのは――!
「もしかして……また関係のない人を困らせてるんですか?」
「ゲェーーッ!? て、テメェはぁぁあああ!?」
「な、なな……!? す、すっぽんぽんの……男の子!?」
一際高くなったボロボロの屋根の上。集まったゴロツキ共と私の視線がその声の方向に注がれる。
そこにはふんわりとした銀色の髪をなびかせ、股間に緑色の小さな葉っぱだけを身につけた、ほぼ全裸の愛くるしい天使のような少年が立っていたのだ!
「もう悪いことはしないってあんなに約束したのに、嘘だったなんて……」
「ま、待ってくれ! 俺たちにも理由ってモンが!」
「え……そうなんですか? でも約束は約束なので……とりあえず皆さんの全財産、没収です……」
「ひええええええええ!? お助けぇえええええ!?」
「なんだ!? この力……まさか!?」
すっぽんぽんの……いや、葉っぱ一枚だけを身につけた少年が、その白くて細い指先をゴロツキたちにビシッと向ける。
するとどうだ!?
奴らが持っていた武器も、服も、パンツも靴もなにもかもが弾け飛び、男たちの悲鳴と一緒に空の彼方に消えていくじゃないか!?
「間違いない! この子が……貧乏神っ!」
ついに見つけた!
国を救う英雄。
伝説のチートスキル、〝貧乏神〟を持つ少年!
すっぽんぽんだけど!
い、今にも葉っぱが取れて、この子の大事な部分がみ……見えてしまいそうだけどっ!?
あ、あ、ああああっ!?
少年の股間の葉っぱが、風でめくれて……!?
ぴゃあああああああああああああああ!?
瞬間。私はとっさに両手で顔を覆いながらも、こっそり開けた指の隙間から見えるすっぽんぽんの少年を、ひたすらガン見し続けてしまったのだった――。
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