ネフェストその5

 俺の目の前では、激しい戦いが繰り広げられている。

 俺の作った実験体達は、まだ研究途中だったとはいえ、古い魔族よりも強い。

 何故なら、俺は前の魔王を超えたのだから。それは当たり前だ。

 だが――


「何故だ!何故なのだ!」

 

 俺の目の前で、俺の作り出した実験体達は、一体、また一体と倒されていく。

 失敗作とはいえ、俺の作った実験体のジェミリオンが強いのはともかく、どこから出て来たのかもわからない妙な仮面を被った奴は一体なんだというのだ。

 まるで、人間のような姿をしているが、さっきから何度も致命傷を受けているように見える。だが、死なないのだ。


「理不尽ではないか!」


 俺がそう叫んでいるうちにも、実験体達は倒されていく。


 そして、いつしか静寂が訪れる。

 

 そこに立っていたのは、ジェミリオンとピエロだけである。

 

「どうやら向こうも終わったようだね」


 ピエロがそう言いながら窓まで歩いて行き、外を眺めた。

 最初、何を言われているのかわからなかったが、慌てて窓に張り付いて外を見て、すぐに理解する。


「馬鹿な。俺の最高傑作が……」


 外でも人間達が俺の実験体に勝利し、魔王城へとなだれ込んできていた。

 

「つまりもうこれで、終わりと言うわけさ」


 その声はすぐ近くで聞こえた。

 窓から視線を移せば、ピエロの仮面が目の前に映る。


「ひっ!」


 俺は驚き、逃れようとして、しかし足がもつれて、尻もちをついてしまう。

 しかし、俺はすぐに立ち上がり走り出した。

 みっともないとは思わない。

 逃げるのはこれが初めてではないのだから。


 後ろを振り返る気はない。

 あの玉座にある隠し通路へさえ、辿り着ければいいのだ。

 そしてそれは、ほんの少しの距離である。


 しかし、そんな俺の前に、ピエロが"降り立った"。

 それはまるで、空から降って湧いて来たかのようであり、走り、逃げる、俺をあざ笑うようでもある。


「どけぇ!」


 だが、俺は迷うことなくピエロへと突っ込んだ。

 腕を振り上げ、ピエロへと突き立てる。


 そして、その腕は、まるで嘘のようにピエロの体を貫通した。


「は?」


 あまりにも呆気なさ過ぎて、俺は驚いてしまう。


「ははは!なんだ!そうだ!俺は魔王を超えた魔王なのだ!負けるわけがないのだ!」


 だが、俺の腕が掴まれる。

 俺が体を貫いたはずのピエロの手によって。

 

「なにい!」


 冷静になれば、不思議な事ではないのかもしれない。先ほどからこいつは何度も致命傷を負っていたのに死ななかったのだ。

 だが、俺は冷静さを欠いていたのだ。


「や、やめ……」


 俺は後ずさるが、その次の瞬間には、俺の視界が回り、視線の先には地面しか映らなくなる。

 首が刎ねられたと気が付いたが、どうしようもない。

 

「あと少し、あと少しだったのに……魔王様を超えたのに……」


 俺はずっとそう呟き続けたのだった。

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