オージェリン・エイレストその5
私はモルディエヌスの妾となり、子供も生まれた。
そして、エイレスト王国は大陸で4番目に大きい国となった。
だが、私の野心はまだ満たされることはないのだ。
全てを喰らいつくさないと収まることはないのだろう。
♦
私の子供は女の子だった。
これは非常に残念である。
シェラミエの一人目の子供も女の子だったのだから、もし彼女より早く男の子を産むことが出来たのであれば、"モルディエヌスに代わって"王に祀り上げることも出来たかもしれないのに。
やはり、私は意外と運がないのかもしれない。
だが、そんな私にも、"運が良い事"は起きるのだ。
その運を運んできたのは、意外にもゼンドリックであった。
「ああ、最悪のことだ。この国だけではなく、この世界でだ。魔王が出現した」
ゼンドリックはそう言ったが、それは最悪の事ではなく、"最高の事"だと私は思ったのだ。
♦
だから、私は喜んで地図を広げた。
「俺が魔王軍にあったのはここだ」
ゼンドリック示した場所は、この大陸の東の端である。
そして、"私の"エイレスト王国は西側を領土としている。
つまり、絶好の位置から魔王軍は侵攻してくれているということになる。
まあ、私が魔王だったとしても東から侵攻する。東の方が小さい国が多いからだ。
そう考えると、魔王というのはちゃんとした奴だとも言えるかもしれない。
「あったと言いますと?」
モルディエヌスが聞く。
あったというか遭遇したんだろう。焦っていてそこまで頭が回っていないのだろう。
どうにもゼンドリックは頭が足りない。
こいつを選ばなくて良かった。
「あったというか……偶然止まっていた村が襲われたんだ。俺は当然戦ったよ。でも、村は守り切れなかった。その時、相手に魔族がいて、そいつが魔王軍と名乗っていたんだ。当然倒してやったけどな。村が滅んでいたらしょうがねえ。すぐに隣の村に向かったんだ」
だが、腕は立つのだろう。
こいつが旅立ってから、大陸中を回り、冒険者達の間では有名になっていたようである。
「それで?」
とりあえず、早く話を進めて欲しい。
「ああ、その隣の村は滅んでいたんだ。それだけじゃない。その隣の村も隣の村も」
"無駄な"正義感があるゼンドリックからしてみれば、それは絶望的な状況だったのだろう。
「そして、俺はとにかく、この国に向かって逃げて来たんだ。その間の街や村で、魔王が復活したという噂が流れていた」
しかし、真っ直ぐこの国へ報せに来たのは素晴らしい事だ。
ゼンドリックの性格を考えれば、そのまま一人で魔王軍に向かって行く可能性もあったはずだ。
だが、愛国心が勝ったのだろう。
おかげでやりやすくなったのは間違いない。
「だから、魔王が出現したという話なんですね」
直接的に確認はしていないが、疑う余地はないということだ。
「それはつまり」
お義母様が魔王軍の進軍を予測する。
「魔王軍は、このように、こちらに向かって来ているという事かしら?」
それは私と全く同じ考えである。
「そうなるな。だから、間にある国々にも知らせて回ったんだが、鼻で笑われることも多かったよ」
鼻で笑った奴らは今頃後悔していることだろう。
いや、後悔する間もないかったかもしれない。
「そう。なら、魔王軍はここで止まるでしょうね」
一つはアジェーレ王国。この大陸で一番大きい国だ。
単純に大国でもあるし、なによりモンスターを狩るのを生業にしている国だ。
簡単に魔王軍に敗れるはずがない。
実は昔、アジェーレ王国の王子を狙おうか考えていた時期もあった。
名前は――ウィグランドだったか。
だが、扱いづらそうなのでやめた。
あそこの国の王子はゼンドリックに似ていた。少し天然ぽいところとかもそっくりである。やめて正解だろう。
なにより、セレームという与しやい奴がいたのだし。
「それとここも」
もう一つは教会都市である。
ここは国も大きいのもそうだが、とにかく人が多い。
アジェーレに比べれば全然弱いだろうが、数の暴力には魔王軍も辟易するだろう。
ここの国は篭絡しようとも思わなかった。
宗教なんてごめんである。堅物なやつも多そうだしな。
この二つの国が魔王軍の侵攻を止めるであろうことは、明白である。
この場でわかっていないのは、モルディエヌスくらいだろう。
「そうだな……」
ゼンドリックも苦々しそうな顔をしながら、私の意見を肯定した。
どうせ無駄な正義感で、そこまでの国は見殺しにするしかないのか、と考えているのだろう。
そればっかりは、私達ではどうする事も出来ないのだ。
もっとも、例えどうにか出来たとしても、私なら放置しておくが。
だって、一度滅んだ後の方が統治しやすいだろう。
「モルディ。"軍の準備は出来ている"わ。両国に傭兵として派遣しましょう」
そう、軍の準備は出来ているのだ。
何故なら、私の祖国である、ヴァスティーナ王国を攻めるための準備をしていたのだから。
いつ頃攻めようか、ずっと機会を窺いながら、軍備を進めていたのだ。
まさか、こんな形で役に立つとは思わなかった。
「え?は、はい」
このことをモルディエヌスは知らない。
直前になって知らせるつもりだったのだ。
どうせそれでも、モルディエヌスは、「はい」と答えるのだから。
傭兵として派遣するのは、単純に金のためだ。
アジェーレと教会都市を防波堤にしながら、金も巻き上げる。
なんて素敵な事なのだろう。
「ん?何故、軍の準備が出来ているんだ?」
わざわざ耳ざとく聞いてくることはないだろうが、元々ゼンドリックが迅速に帰ってきた理由でもあるのだろう。
出来るだけ早く、エイレスト王国の魔王軍に対する準備を進めるために戻ってきたのだから、気になるのは仕方がないかもしれない。
それにしたって、わざわざ聞いてくるのは、本当に面倒なやつである。
「それは――」
私ではなく、お義母様が口を挟んできた。
ただ、元々お義母様と口裏は合わせてある。
この大国の住民達を守るために、軍備をしっかりしている。ただ、この程度ではある。
実際に、住民の要請を受けて、何度かモンスター狩りにも行かせておいた。不審な点はない。
「ゴホッゴホッ!」
しかし、その説明をする前に、急にお義母様が咳き込む。
私はその様子を見て、心の中で笑う。
父親に続き、母親まで失うなんて可哀想なモルディエヌスである。
「母様!」
モルディエヌスが"凄い勢い"で母親の元へと駆け寄った。
「ごめんなさい。今日はこれまでにしましょう。魔王軍の侵攻はまだアジェーレには到達してないでしょうし、ゼンドリックもよく急いで知らせてくれたわ。今日はもう休むといいわ」
しかし、当の母親は早口でまくし立てると、とっとと部屋の外へと出て行ってしまったのである。
だが、モルディエヌスはその背中を追って行ってしまう。
心配なんだろうが、母親の気持ちくらい考えてやれと思う。
あの女は、モルディエヌスには弱い所を見せられないのである。
常に、誰よりも強い姿を見せて来たのだから。
モルディエヌスの中の母親を保たないといけないのだ。
「なんだ?叔母様は大丈夫なのか?」
大丈夫なわけないだろう。
大丈夫だと困るのだ。
夫婦揃って同じ病で死ぬとは、本当に"ついてない"奴らだ。
「モルディが追いかけて行ったし、大丈夫ではないでしょうか?」
だが、大丈夫な事にしておく。
「そ、そうか」
ゼンドリックは先ほどの質問を忘れてしまったようだ。
偶然なのだろうが、凄くいいところで咳き込んでくれたものだ。
だから、このままうやむやにしてしまおう。
「それよりも、長旅でお疲れでしょう。お義母様の言うように、お休みになられた方が良いよ思いますわ」
「ああ……」
私は衛兵に頼み、ゼンドリックを自室へと送らせた。
5年間使ってない部屋ではあるが、一応王族の部屋だから手入れは怠っていないはずである。
「ふふっ……」
一人となった私は、部屋で笑う。
魔王軍の出現は、間違いなくこちらにいいように転がるはずである。
ヴァスティーナ王国は、まともな軍事力を持たない。
だから、滅ぼさなくても取り込めるかもしれない。
流石の私も自国を滅ぼすのには、少しは抵抗が――ないが、滅ぼすよりは後の処理が楽である。
それに、お義母様もいなくなれば、後は私の好きなように出来るのだから――。
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