グザンその2

 "昼"になり目が覚める。

 いつも通り、着替え、飯を食い、外を眺める。

 今日も俺様のために"ゴミ共"が働いている。

 これで今日の俺様の仕事は終わりだ。

 いつも変わらない仕事を奴隷にやらせているだけだ。

 その奴隷は部下が見張っている。

 俺様がやる事は何もないのだ。


 そう考えると、くだらないものだ。

 新しい魔王の奴は気付いているのだろうか?

 俺の上司がいて、俺の部下がいて、奴隷達が仕事をしている。

 この機構は、まるで人間社会じゃないか。

 魔族は、意思と感情に芽生えて、人間と変わらぬ存在になったのだ。

 魔族が人間を滅ぼした後は、魔族が人間として生きていくのだ。


 まあ、実のところ。あの、"お喋り"な魔王気取りのやつは、きっと気づいているだろう。

 頭だけはいいからな


 ふと思い出した。

 まだ、今日の仕事は終わっていない。


「そういえば、今日はもう一仕事あるのだったな」


 愉快な、愉快な仕事がな。

 魔族が社会を形成したら――というか申しているのだが。どうなるのかわからない。

 今のうちに、愉しい思いをしておかないとな。


「おい、12番を呼んで来い」


 そう、命令すると。偽物の魔族たちは、なんの疑問も抱かずに、返事をして命令を遂行するのだ。

 こいつらは"つまらない"。



     ♦



 待っている間に、甘いものを持ってこさせる。

 今日はケーキだ。

 ケーキに限らず、甘いものは大好物である。

 初めてケーキを口にした時、何十年も生きて来た意味を初めて感じたほどだ。


 俺様は魔族だし、人間はゴミだと思っている。しかし、こういった甘味を作り出した能力は素晴らしい。

 そこだけは褒めざる負えないだろう。


 ちなみにこのケーキは、特別なケーキである。

 ケーキ自体は普通だ。普通のケーキだ。

 ならば、どう特別かという話だが……。

 このケーキは、飢えた奴隷に作らせたケーキなのだ。

 このケーキを作っている最中、どれほど食材に手を付けようと考えたのだろう。

 だが、手を出せば。文字通り、その手が落ちる。

 だから手が出せない。

 その様を頭に思い浮かべると、愉快で愉快でたまらないのだ。

 なんの変哲もない、このケーキも、極上の味へと変わるのだ。


 そうして、ケーキを楽しんでいると、扉がノックされた。

 ベナミスが来たのだろう。


「12番です」

「おお、入れ」


 このベナミスと言う男は、俺様のお気に入りである。

 そして、奴隷達の中にいる、唯一の俺様の部下である。

 

 相変わらず汚い恰好だ。いるだけで部屋が汚れる。

 まあ、部屋を掃除するのは、俺様ではないからどうでもいいのだが。


「ようベナミス。それともデミライトと言うおうか?キングと呼ぼうか?」


 ベナミスは御大層な名前を持っている。

 そこもまた、こいつを気に入っているところだ。

 こいつがいつか死んだら、名前をもらおうか。

 グザン・デミライト・キング。

 うん。いいじゃあないか。


 ベナミスを言葉でなじると、とても良い反応をする。

 本人は気付いてないのだろうが、俺を見る目が怯えている。

 "最初の事"がよっぽど効いているのだろう。 

 こいつの反応は、偽物の魔族共の相手をするよりはるかに愉しいものだ。

 あいつらは、決まった応答しかしないからな。


 そろそろ勘弁してやるか。


「どうだった昨日は?」


 これは俺様の有能な所だ。

 こいつらに革命軍ごっこをさせているのは俺様だ。

 1か月に、たった1日だけ飴の日を作るだけで、仕事の効率が上がるのだからな、ちょろいものだ。

 俺は毎日、甘いものを食ってるんだけどな。

 

 ベナミスが定期報告をしているので、俺様は適当に答えてやる。

 退屈だが、一応毎月報告くらいはさせんとな。俺様は有能だからな。


「私と32番の持ち場が同じなのですが、変えることはできないでしょうか?」


 適当に聞き流していたのだが、面白い話が飛び出した。

 つまるところ、ベナミスは俺と密会していることをバレたくないというわけだ。

 俺様は困らない。奴隷をどう扱おうが、俺様の勝手だからな。

 だが、ベナミスは困るのだろう。

 今までの信頼が全てなくなるのだ。

 その時、いったいベナミスはどんな絶望した顔をするのだろうか。

 それは愉しそうだ。

 だから、俺様はこう言うのだ。


「別にいいじゃないか」


 ベナミスは反論してこなかった。

 まあ、うまく隠せばいいだけの話だからな。


 さて、そろそろ帰してやるか。

 結構長い事話していたしな。


「"今日は"もういいぞ」


 また呼ぶからな。それは、呼ぶ"理由がある"からだ。


 帰っていいと言われたベナミスの顔は、平然としている。

 心の中では喜んでいるくせにな。

 今度また鞭打ちしてやろう。


 ベナミスは挨拶をして、去っていった。


 俺様はと言うと、あとは奴隷達が苦しんで仕事をしている姿を肴に、ケーキを食うだけである。

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