ベナミス・デミライト・キングその4
城は滅ぼされた状態で、あまり修繕もしていないので、ボロボロなのだが。このグザンの部屋だけは整理整頓されていて、とても小奇麗だ。
と言ってもグザン本人が掃除しているわけではないだろうが。
そんな小奇麗な部屋でグザンは"どでーん"と言う感じでソファーに座り、上機嫌でケーキを食べている。
それを見て俺は、今日は早く帰れそうだなと思った。
「ようベナミス。それともデミライトと言うおうか?キングと呼ぼうか?」
グザンはとても気さくに話しかけてくる。
だが、その態度に答えることはない。
「そんな恐れ多いです。番号でお呼びください」
「そう言うなよベナミス~?俺は、お前の名前が好きなんだぞ?それしか長所がないんだからな?」
「お褒め頂き。ありがとうございます」
「おっと、もう1個いいところがあったな。いや、2つか。おべっかが上手い所と、命乞いが上手い所だな」
グザンは俺のことをなじって、反応を見て楽しんでいるのだ。
だから、俺はわざと少し嫌そうな顔をする。
本当は別に何も思っていない。なじられようが気にもしない。だが、少し嫌そうな反応をした方がグザンが喜ぶのだ。
これはグザンも思いつかなかった4つ目のいい所だろう。"俺は演技が上手い"。
それを思いついた時、笑いそうになるが、こらえた。
「ふんっ!まあいい。でっ、どうだった昨日は?」
これが本題だ。
"革命軍ごっこ"をした次の日には、報告するためにグザンの元へと呼び出されるのだ。
そしてこれが、ラエインが同じ持ち場にいると困る理由だ。俺が魔族に呼び出される日に法則性があると、気づかれてしまうかもしれない。
といっても俺が呼び出されるのは、"この日だけではない"のだが。
「はい!グザン様のおかげで、皆とても楽しんでいました」
「そうだろうそうだろう」
グザンが得意気に頷く。
実際にグザンのおかげの部分はある。
グザンが、俺に物資を横流ししているのだ。俺はあまり不自然な量だと、革命軍にバレそうで、気が気ではないのだが。
しかし、革命軍の奴らは勝手に都合がいい方に解釈してくれるので、なんとかバレずに済んでいる。
「そして、報告して会った通り。32番の若者が新たに革命軍に加わりました」
もちろん32番と言うのは、ラエインの事だ。
「そいつの名前は?」
名前を聞いても、どうせこいつは覚えないだろう。
「ラエインと言います」
「そうかそうか」
そう言うグザンの顔は、どうでも良さそうだ。
仮に今「32番の名前はわかりますか?」と聞いてもどうせ答えられない癖に。
「それで、その……」
「んー?なんだ?言ってみろ?俺様は優しいからな」
実はこれは嘘ではない。魔族にしては優しいのだろう。
と言うより、効率的に動いているだけなのだろうが。
「私と32番の持ち場が同じなのですが、変えることはできないでしょうか?」
「別にいいじゃないか」
駄目だった。
むしろ、グザンは楽しそうに笑っている。
俺の考えを見通したうえで、断ったのだろう。
俺が――いや、違うな。全員だ。奴隷全員だ。
グザンは奴隷が苦しんでいる様が、愉快で仕方がないのだ。
こいつは些細な嫌がらせをするのが好きなのだ。
「わかりました。話を聞いていただき、ありがとうございます」
「話を聞いてやる優しさが、俺様にはあるからな」
これも本当なのだ。
ここにいる魔族で、会話になるのはグザンだけだ。
外にいる魔族共はまるで機械だ。
話など聞いてはくれない。
「いつも助かっています。ありがとうございました」
「他に何かあるか?」
「いいえ。何も」
「そうか。なら"今日は"もういいぞ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
礼をして、グザンの部屋から出る。
やっぱりだ。今日は短くて済んだ。
あとは何食わぬ顔して、持ち場へと戻るだけである。
♦
夜になり、テントに戻る前に、ダオカンの元へと向かった。
別にグザンとの話をするためではない。
俺がグザンと繋がっていることは、ダオカンにだって秘密である。
ダオカンは二日酔いがまだ抜けてないのか、相変わらず頭を押さえている。
「ラエインは今日は駄目そうだったな」
「やっぱりか」
「最初はみんなそんなものだろう」
「励ましてやらんとな」
ダオカンは無駄にいい奴だ。俺とは大違いだ。
ラエインが暗い顔をしながら、こちらへと向かって来た。
革命軍の仕事と言われて、責任を感じているのだろう。
本当に馬鹿らしい。
「あのダオカンさん……」
「いや、いいんだいいんだ。わかってるよ」
俺が駄目そうって言ったからな。それはわかっているだろう。
「初日から上手くやれる奴なんていないんだよ。なっ?ベナミス」
「そうだな」
適当に返事をしておこう。
「なんで、わかったのかって?そりゃ、そう暗い顔していたら誰だってわかるさ」
俺が教えなくても、そんな顔していたらそれはな。
「すいません」
「気にするな。誰にだってそう言うときはある」
とりあえず俺もダオカンを習って、適当に慰めたのだが、何故かラエインの目が輝く。
そんなに特別な台詞を吐いたつもりはないのだが。
「ありがとうございます」
「ふっ、いいってことよ。俺も今日はなんも取って来てないしな」
「ありがとうございます」
「ふっ、いいってことよ。俺も今日はなんも取って来てないしな」
ダオカンは今日、二日酔いでずっと頭を押さえていただけだろう。
何もしているわけはない。
つい笑ってしまい、顔を背けた。
こんな情けない笑い顔を見せるわけにはいかない。
「それで、ベナミスさん。今日は大丈夫でしたか?」
マズい。早速勘ぐって来た。
やはり俺だけが呼び出される状況は不自然なのだろう。
「ん?あ、ああ。呼び出された事か。それは……その……少し荷物を運ぶのをやらされただけだよ」
いつもの言い訳だ。
俺が一番、体がでかいから説得力はあるはずだ。
「あー。すまんが、そろそろダオカンが限界みたいだ。ラエインも顔色悪いぞ。早めに寝たほうがいい」
これ以上、変に追及されたくないしな。
ただ、早く会話を切り上げたいだけの言葉だったのだが、ラエインは何故か目を輝かせている。
一体なんなんだこいつは。
もう相手をしたくない。すぐに行こう。
「それじゃあ、また明日。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
何とかやり過ごせたようだ。
ラエインの事は嫌いではないと言ったが、やっぱり苦手かもしれない。
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