ベナミス・デミライト・キングその3

「うわあああああ!」


 毎日のことだが目覚めは最悪だ。

 同居人がいなくて助かる。

 元々はいたのだが、みんな死んでしまった。

 死んだ理由は"同じだけどそれぞれ"だ。

 なぞなぞではない。

 生活に耐えきれず自殺した者。質素な食事では足りずに餓死した者。魔族に鞭で打たれて死んだ者。

 みんな奴隷だから死んで行ったのだ。


 だからテントは"スカスカ"で、一人一つのテントを使っているのは普通だ。誰も居ないテントもあるくらいだ。


 だけど俺は"知っている"。

 こんな地獄だが。それでも、ここはマシだという事を。


 そんな無駄な事を考えていると、いつも通りエニールの大きな声が聞こえて来た。一日の始まりだ。


 テントから外に出て、まずはダオカンの所へと向かう。

 ダオカンは頭を押さえて呻いていた。宴の次の日はいつもこうだ。俺はそこまで無茶をして酒を飲まないので、二日酔いになったりはしない。

 だが、月に一度のまともな食事となればしょうがないだろう。

 いつ死ぬか、わからないのだから。


「生きてるか?ダオカン」

「お、おお。ベナミスか。見てのとおりよ」


 見ての通り死んでいるというわけだ。


「大丈夫か?俺がやろうか?」


 ラエインの事だ。新入りには話さないといけない事がある。


「いいや。大丈夫だ。任せとけ」


 それをダオカンがやる必要はない。だが、新人の相手は基本的にダオカンがやる。

 理由は単純だ。ダオカンの方が人の扱いが上手い。

 じゃあなんで俺が革命軍のリーダーをやってるのかって?

 そんなの俺が聞きたいくらいだ。


 俺は、ダオカンがラエインを呼び出したのを見届けると、いつも通り魔族が来るのを待つのだった。



     ♦



 実は俺には、少し困っていることがある。

 それは、ラエインと仕事の持ち場が同じというところだ。

 革命軍で同じ持ち場なのはラエインだけだ。

 これは非常に困るのだ。

 "バレてしまう"かもしれないから。


 "ちらり"とラエインの方を見ると、落ち着きがない様子だ。

 最初はみんなああなのだろう。


 見つからないといいとは思わない。

 はっきり言おう。


 ラエイン・ノステルが死んでも構わない。


 むしろ俺からしてみると都合がいいくらいだ。


 ラエインを革命軍に入れたのは仕方がなくだ。

 仲間の誰かが、ラエインに革命軍の事を喋ってしまったのだ。

 そうなると、当然のように、あの若者は革命軍入りを熱望した。

 仲間の手前、断ることは出来なかった。

 

 だが、あの若者は危うすぎる。

 暴走しそうだと思う。

 俺は命が尽きるまで、ただただ少しでも楽に生きたいだけなのだ。


 だからと言って、ラエインを自分の手で殺そうとは思わない。

 ラエインという若者自体は嫌いではないし、仲間だとも思っている。

 ただ、その存在が、"都合が悪い"というだけなのである。


「おい!」


 魔族の声が聞こえた。

 ラエインと……エニールが焦っているのが見える。

 ラエインはわかるが、エニールも何かしていたのだろうか?

 物思いに耽っていたせいで見ていなかった。

 

 だが、魔族が声をかけたのは俺だろう。

 お迎えのようだ。


「12番はいるか?」

「はい!」


 待っていたかのようにすぐ返事をする。

 いや、実際に"待っていた"のだ。

 エニールが、ホッとしているのが見える。

 面白い娘である。


 黙って魔族についていく。

 横目でラエインを見ると、何故か目を輝かせていた。

 間違いなく、何かを勘違いしているのだろう。

 ラエインを嫌いではないと言ったが、あの目は嫌いだ。

 ラエインだけではなく、何人か同じ目をしている奴は、革命軍にいる。

 俺に夢を抱き、期待をするのは無駄だというのに。

 


     ♦



 

 俺には3つの秘密がある。

 誰にも知られてはいけない秘密がある。


 俺はいつも通り、魔族に連れられて城の中を歩く。

 迷うことはない。

 歩き慣れているからだ。


 そして、ある部屋の前に着く。

 部屋の前には、魔族が二人、見張りとして立っていた。

 厳重な警備の先にいるのは、この国の"今の長"だ。


 俺は扉をノックした。


「12番です」

「おお、入れ」


 そう言われて招かれた部屋の中には、この国の長であるグザンがいるのだ。

 これはいつもの光景である。

 

 これが2つ目の秘密だ。

 俺は裏で、魔族の長であるグザンと繋がっている。

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