ラエイン・ノステルその3

 革命軍の集いが終わり、自分のテントへと帰った僕だったが、眠れなかった。

 お酒を飲んで酔っ払っていたし、美味しいご飯もたくさん食べた。

 だから、本来であれば眠くて仕方がないはずなのに、興奮が勝ってしまったのだろう。


 結局、朝まで寝ずに過ごしてしまったのである。

 これから仕事があると言うのに大変な失態だ。

 

 でも、昨日から僕は革命軍の一員だ。

 そう考えると、不思議と力が湧いてくるのだ。


 もうすぐ、起きなければいけない時間だと思う。

 そうだ。水場に行こう。

 いつもは並んで使う水場だけど、こう朝早くては、並ばなくて済むだろう。


 そう考えて、外に出たのだが、太陽が大変眩しい。

 そういえば、夜を寝ずに過ごしたのは初めてかもしれない。

 なんだか悪い事をした気分になる。


 水場はすぐそこだ。やはり誰もいない。

 だからと言ってはしゃいだりはしないし、無駄使いをしたりしない。

 みんなの為に、いつも通り、使うだけだ。


「ラエイン?どうしたの?いつもより早起きじゃない」


 急に声をかけられた驚いた。

 そこにいたのはエニールだ。


「やあ、エニールおはよう。実は寝付けなくてね」


 特に隠す必要もないので正直に答える。

 エニールは、こんなに早起きしているのかとも思う。

 いつも起こしてもらって感謝しなければいけないな。


「もう!倒れないでよ?」

「それは大丈夫さ。むしろ元気いっぱいなくらいだよ」


 本当の、本当に、そうなのだ。

 今日ほど心が晴れている日もないだろう。

 

 体だって疲れているはずなのに、驚くほど軽いのだ。

 だけど、なんでエニールはそんなに心配そうな顔をしているのだろうか?

 

 少し話をした後、エニールはみんなを起こしに行った。

 僕は少し時間が空いてしまったなと思ったけど、テントに戻る気は起きない。

 少し辺りをうろつこう。


 そうしている間に、エニールがみんなを呼び起こしていく。

 その中には、ベナミスさんや、ダオカンさんもいるのだ。

 そう思って見ていると、ダオカンさんが手招きしているのが見えたので、急いでダオカンさんの元へと向かった。


「ちょっといいかラエイン」

「はい!もちろん」


 きっと革命軍の話だ。そうに決まっている。


「おいおい声がでけえよ」

「すいません」


 革命軍の話は内密にしないといけないのだから、大きい声はご法度だろう。失敗してしまった。


「二日酔いに響くからよ」


 あれ?もしかして革命軍の話ではなかったのだろうか?


「お前は大丈夫なのかよ?」

「あっ、はい。全然」


 言われてから気づいたくらいだ。何ともなかったから。眠らなかったからだろうか?


「それでよ、ちょっとこっちに来な」


 そう切り出したダオカンさんの声は小声だ。心なしく周りも気にしている気がする。僕はダオカンさんに誘われるがまま、人気のないテントの裏の方へと向かう。


「昨日は言わなかった。と言うか、いつも誰にでも次の日に言うんだけどよ。昨日のあの飯がどこから来てるか?って話よ」

「はい!」


 それは昨日からとても疑問だった。


「あれは、みんなが自分の担当場所からちょろまかしてきてるのよ」


 やはりそうなのだろう。と言う感じだ。


「だからなラエイン。わかるだろ?」


 ここまで言われて、わからない者はいないだろう。 


「僕も畑から何か取ってくればいいんですね?」

「そういうことよ。昨日言わなかったのはな。気遣いよ」


 どういう事だろうか?


「これはベナミスの気遣いよ。最初の日は、良い気分で終わってほしいってことよな」


 なるほど!流石はベナミスさんだ!


「それではラエイン・ノステル。君に最初の革命軍としての仕事を命じよう」

「はい!」

「魔族の目を盗み。自分の持ち場から食料を奪ってきてくれ給え」

「任せてください!」


 すこし、力が入り過ぎたかもしれない。


「だから、声が大きいって」

「すいません」

「ははっ、いいって事よ。それだけ気合が入ってるってことなんだから。それよりも……しょぼい仕事だと思うか?」


 それは少し思う。だけど、


「いえ、そんなことは……」

「いや、いいんだ。でもな、ベナミスだってやってるんだぜ?」

「ベナミスさんもですか?」


 それは意外だ。

 何故なら僕はベナミスさんと持ち場が同じなのだから。

 でも、ベナミスさんが、そういうことをしているところは"見たことがない"。

 それに、革命軍のリーダーでも、そういう地味な仕事をするんだな。と思う。


「ああ、あいつは一番持ってくるんだぜ?色々な、一体どっから持ってきてるんだか?噂では。夜に魔族共の住処に忍び込んで、盗んできてるって話まであるんだぜ?」

「ええ!」


 考えるだけでも恐ろしい事だ。

 見つかったら間違いなく処刑させる。


「命知らずのベナミスってやつよ」


 何故だか、ダオカンさんが得意気に喋る。

 でも、気持ちはわかる。

 僕だって、僕たちのリーダーは凄いんだって思うのだから。


「おっと、そろそろ時間だな。まあ、無理はしない事よ。見つかって殺されたら、元も子もないからな」

「精一杯頑張ります!」


 そう言って、僕たちは別れて、それぞれの持ち場へと向かったのだ。

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