ラエイン・ノステルその2

 僕が挨拶をすると、みんなは"ドッ"と騒ぎ出した。

 それは歓声だ。


 「よろしくな、ラエイン」とか「頑張れよ!若造!」とか「楽しみにしてるぜ」とか、内容は色々だ。


 そんな言葉ばかり聞かされると、なんだか照れくさくなってしまう。

 でも、それと同時に、これで僕も革命軍の一員なのだ、という実感を感じるのだ。

 

 そう、僕は革命軍に入れるこの日を、ずっと待ち望んでいたのだ。


 革命軍は、その名の通り、来るべき日に決起し、この国を魔族から取り戻すための軍だ。

 ここには、子供は20歳になると入れる。

 そして、革命軍の集まりは月に1度だけある。

 先ほど言っていた。タイミングがいいと言うのは、たまたま月に1度の集まりと、僕の誕生日が被っていたというだけの話である。

 でも、僕はこれは運命だと思っている。

 今まで、中々機会が来ずに、決起できずにいた革命軍だけど。きっとすぐにその日は来る。そんな気がするのだ。

 

 革命軍は、当然ながら、奴隷の一部の集まりだ。

 みんな顔見知りである。だから、紹介が終わって、騒ぎも少し収まると、僕はすぐにみんなの輪に溶け込むことが出来た。


 机の上には、普段の質素な飯とは比べ物にならない料理が並んでいる。肉だってある。


「ラエイン。料理ってのは、見るためにあるものではないんだぞ?」


 そんなに見ていたのだろうか?ダオカンさんが声をかけてきた。

 こんな料理は、奴隷になる前にしか見たことがない。もう何年も前の事だ。

 いったい誰がこんな料理を調達してくるのだろう。


「料理ってのはな、食うためにあるんだぞ!」


 そう言って、肉にダオカンだんが齧りつく。

 だけど、僕は躊躇してしまう。


「でも、僕たちだけ良いんでしょうか?」


 他の奴隷達は、ずっと質素なご飯しか食べてないのに。


「あのなあラエイン。これは必要な事なんだよ。俺達は、"戦う為"に集まってるんだ。そのために力を付けとかなきゃいけないだろ?」


 それはその通りかもしれない。


「だから……な?」


 肉を目の前に出される。

 もう、躊躇する理由はなかった。

 わき目もふれずに、肉に齧り付いたのだ。


「うまい!こんなに美味い食べ物は初めてですよ!ダオカンさん!」


 あまりの旨さに涙が出て来た。

 きっと本当は、別に旨くはないのだろう。

 でも、数年振りのまともな料理だ。

 これほど旨い料理はないのだ。


 僕の周りの大人達は、うんうんと頷いている。

 彼らも通って来た道なのだろう。


 更にダオカンさんが、僕の横に飲み物を、ドンッ!と置いてきた。


「酒もあるぞ!ラエインは初めて飲むよな?」


 もちろん初めてだ。と言うか、どこから持ってきたのだろう?

 そんなことどうでもいいか。


 僕は薦められるままに、酒を飲みだした。


「いい飲みっぷりだな!」

「じゃんじゃん飲めよ!」


 そして、どんどんと注ぎ足される酒を飲み続けるのだった。



     ♦



 宴は長く続く。

 酔いも回って、良い気分だ。

 隣で、ダオカンさんが僕の肩を抱いている。

 その逆の隣では、ベナミスさんが静かに飲んでいた。

 ダオカンさんは、べろんべろんだ。でも、ベナミスさんは全然酔っていなくて、キリッとした顔を崩していない。流石はベナミスさんだ。とてもかっこいい。

 

「で、よお、俺もこの国が襲われた時は勇敢に戦ったんだけどよお――」


 この話はもう三回目だ。酔っぱらうと言うのはこういうものなのだろう。


「ベナミスさんは、その時どうしてたんですか」


 せっかくベナミスさんがいるのだし、ベナミスさんの話も聞かせて欲しい。


「よくぞ聞いてくれました!」


 でも、答えたのはダオカンさんだ。まあ、いいか。


 ダオカンさんは、僕に回してる手をどかして、今度はベナミスさんの方を組む。

 

「こいつ……そう、我らがリーダーたるベナミスは――元王国の軍団長よ」


 それは知っている。みんな知っている。

 実際に、"王子の隣にいたところを見たことがある"と言う人もいるくらいだ。


「そして、最後まで勇敢に戦った戦士よ」


 だけど、王国の兵士は"一人残らず皆殺し"にされたのだ。


「そう!みんなの知っての通り、兵士は皆殺しにされた。でも、ベナミスは強かった。ギリギリ生き残ったんだ!」

「運悪くだけどな」


 静かに、口を挟んだのはベナミスさん本人だ。


 運悪くだなんてとんでもない!と思う。ベナミスさんがいなければ、革命軍だってないのだ。


「謙遜しやがって、こいつ!」


 ダオカンさんが、ベナミスさんの頭をぐりぐりとする。

 ベナミスさんは、そんなことをされても静かに笑うだけだ。

 ベナミスさんは凄いだけじゃなく、優しいのだ。



     ♦



「そろそろ、時間だな……」


 料理もなくなりだし、皆の騒ぎも収まりだした頃に、ベナミスさんがそう言った。

 お開きなのだろう。

 ダオカンさんが立ち上がり、みんなも立ち上がった。僕もそれに倣って立ち上がる。


「皆!今日までよく生きて来たな!今日はこれで終わりだ!また来月まで頑張ろう!」


 ダオカンさんが控えめながら、大きな声でそう言った。

 その言葉は続く。


「革命軍に栄光あれ!」


「革命軍に栄光あれ!」「革命軍に栄光あれ!」「革命軍に栄光あれ!」


 僕も、遅れないように続く。


「革命軍に栄光あれ!」


 飲み食いするために革命軍に入ったわけではないけど、食べ物は本当に美味しかったし、初めて飲んだお酒でも、酔い気分になれた。最高の一日だった。


 今日という日を忘れないだろう。

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