ベナミス・デミライト・キングその1

「うわあああああ!」


 朝になると勝手に目が覚める。

 また、あの夢だ。

 

 俺には秘密がある。

 誰にも話せない"3つの秘密"があるのだ。


 テントの中でうずくまり、ただ何もせずに時間が経つのを待つ。

 そうすると、


「おはよう!」


 と大きな声でエニールが起こしに来るのだ。

 そこまで来てやっと、俺はテントを出るのだ。


「いつも起こしてもらって悪いな。エニール」 


 嘘だ。本当は起きているのだ。

 でも、これでいいだろう?


「ううん。大丈夫?顔色悪いよ」

「ははっ、大丈夫だ。顔色が悪いのはみんなだろう?」

 

 奴隷なのだから。心の中でそう付け足す。


「気を付けてね!それじゃ!」

「ああ」


 そうして、いつもの一日が始まる。

 ……と思ったが、今日はあの日だったな。月に一度の特別な日だ。



     ♦


 俺の昼の仕事は畑仕事だ。

 今日はいつになく、順調だった。

 ラエインがソワソワしていたのは、よく覚えている。

 待ちきれないのだろう。



     ♦


 そして、夜になってテントで休んでいると、ダオカンがやってきた。予定通りだ。


「よう!セスたちが見て来たんだけどよ。今日はやっぱり、見張りはいなかったぜ」

「それでは問題はなく始めれそうだな」

「ラエインはどうだった?」

「ふっ、待ちきれない様子だったよ」


 当たり前だろう。ラエインはずっと革命軍に入りたいと言っていた。


「それじゃあ早く行ってやろうぜ」

「そうだな」


 そう言って、俺とダオカンはラエインのテントへと向かう。

 と言っても、そんな距離はない。

 ダオカンと、少し話しながら歩いていればすぐ着いた。


「では入ろうか。待ちわびているだろう」

「ちょっと待ってくれベナミス」


 妙に小声でダオカンが、テントに入ろうとした俺を止める。

 

「なんだ?」

「せっかくだから驚かせてやろうぜ!ラエインはお前の事を尊敬してるんだよ」


 なんだそれは、イメージを壊そうって事か?


「俺が入って、ラエインの気持ちを昂らせとくのよ。そこにお前の登場で、ラエインは感無量ってわけよ」


 そんなものだろうか?


「まあ、別に待つくらいいいが」

「じゃあ、行ってくるぜ」


 そう言って、ダオカンは一人で中に入ってしまった。せっかちな奴である。

 だが、こういうことを出来るのが、あいつのいい所なのだろう。


 空を仰ぐと、星が見える。当たり前のことだが、こんな休まる時間を過ごすことは、そうそうない。だから星を見たのも久しぶりだ。

 だからといって、感傷に浸るわけではない。

 星に特別な思い入れがあるわけでもない。

 流れ星が流れて、奴隷ではなくなりますように。なんて無意味な願いをすることもないのだ。


 しかし、やけに遅いな。話が盛り上がっているのだろう。

 外でじっとしていると落ち着かないものだ。無意味に星など見だしてしまう程に。

 

 その時――ふと、目に映った。

 勘違いかと思った。こんな時間にいるはずがない。もう寝ているはずだ。

 だが、間違いない。エニールだ。


 咄嗟に追って、肩を叩いてしまった。


「エニールじゃないか?どうしたんだ?」


 声をかけたあとに、放っておけばよかった。と後悔した。なんで追ってしまったのだろう。


「こんばんは。ベナミスさん。その……ちょっと……」


 いつも"ハキハキ"と喋るエニールが言いよどんでいる。とても珍しい。何か隠しているのは見え見えだ。

 だけど、大したことではないだろう。

 それにもう戻らなければ。流石にそろそろ、ダオカンとラエインが出てくるはずだ。


「むっ……そうか。あまり遅くなるなよ。魔族共に見つかったら大変だ」


 そう言って、俺は早々と会話を切り上げると、元の場所へと戻っていったのだ。

 こんな時間に、エニールが何をしていようと、俺には関係ない事だ。


 ラエインとダオカンは、既にテントから出ていた。

 ダオカンが俺を見つけて、「おっ」と声を上げた。


「どうしたんだよベナミス。あっ!もしかして、驚かそうとしてたな?」


 まずい。まさかエニールは見つかってはいないよな?

 ダオカンは好奇心の塊のような男だ。

 こんな時間に出歩いているエニールを見つけたら、質問責めが始まるだろう。

 エニールの様子を見るに、それはエニールにとって、とても都合が悪いのだろう。

 人には隠し事の一つや二つ、"三つ"くらいあるだろう。庇ってやることにする。


「あ、ああ。いや、そういうつもりではなかったのだが……その……少しな……」


 俺は少し位置を確認しながら、ダオカン達とエニールがいた辺りの間に移動する。


 だが、あからさますぎたのか。ラエインは疑っているようだ。


「ラエイン!」


 そんなラエインをダオカンが一喝した。

 とても都合のいいタイミングだ。助かる。


 ラエインはダオカンと話して、俺を疑ったことはとりあえず胸にしまったようだ。

 

「それじゃあ行こうか」


 そう言って、ラエインを誘導する。

 なんとかバレずに済んだようだ。


 そして、ラエインを連れて歩いて行き、 革命軍の集まりのテントの前に着いた。

 ラエインはテントに入るのすら緊張しているようだ。

 ダオカンが声をかけて、緊張を解いている。


 何を緊張することがあるのだろうか。

 俺は笑ってしまう。


 だって革命軍なんて――馬鹿らしいのだから。

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