第10話 急転

「こ、こんなことが……ま、魔王様ああああ! 私をお許しくださ……い」


 なんとエルカがくれた宝珠は解魔石と同じ機能を発揮した。そして放った出力はグレイに対する効果は抜群だったようで、致命傷を与えることに成功した。


「これで、終わりだな」


「確かに私は終わりだが、覚えておくがよい。私は欠片に過ぎないということ」


 ――――そう言い残すとグレイは闇と化して消えていった。


「リル! お前しっかりしろ」


「……エルカ?」


「無事でよかった、お前心配させおって」


 グレイの闇が消えると、リルさんの身体は元通りになっていた。そして意識も戻ったようだ。


「私は何処で何を……痛っ」


「コノヤロー、勝手な真似をしおって、お前のせいでどれだけ大変なことになっていたか」


「は、はあ? いきなり叩いてきて、意味が分からないんだけど」


 それからリルさんとエルカの軽いじゃれ合いが始まった。


「これは、見入ってしまいますね」


「うんうん」


 微笑ましい様子を眺めながら、僕は2人が無事再開できてよかったと一安心したのであった。




  僕達が外に出るとすっかり、空は明るく朝になっていた。トーラス聖堂の応接間に移動して今回の件についてみんなと振り返る。


「誠にお見苦しいところお見せして申し訳ありませんでした!」


「まあまあ、顔を上げてくださいリルさん、そんな気にしていませんので」


「いえ、そもそも今回の事件の原因は私にありました。もちろんこれは土下座だけでは済まないと思いますが、なんなりと要求をお申し付けください」


 うーん……自分としては闇を祓えたんでもう満足なんだけどな。


「そうだなあ……僕からは特にないけど、皆はどうだ」


「私もありませんね」


「……ある! ありまくるわ」


  まあそうなるかあ。


「そしたらリルさんは、エルカの要求を聞いてくれないか」


「かしこまりました!」




「まずだが、私はこれからグラスのパーティに入らなければならん」


ああ、あの報酬の件は本当だったのね。


「そうなると、聖堂の管理者をするものがいなくなるだろ。だからリルがトーラス聖堂の新しい聖女になるんだ!」


「え、私がですか! むしろ願ってもない事です。しかし私にそんな大役が務まるかどうか……」


「おい敬語をやめろ……調子が狂うぞ、私はリルを見込んでいるから絶対大丈夫だ! 信じろ」


「分かった! エルカの言う事を信じるね」


「ふん、よく言ったな」


「むしろ……エルカの時よりもっと凄い聖堂にしちゃうかも」


「な……なんだとお!」


「だって、エルカのセンスは前からしょぼいと思ってたんだもの。私ならもっと凄いことが出来るに違いないわ」


「言ったなお前え! 撤回だ撤回! やっぱり聖女にリルは相応しくない!」


 ガヤガヤガヤガヤ


 ハハハハ……また始まったよ。


――――数分が経過した。


「グラスさん、今回は本当に助かりました! そしてエルカをこれからも宜しくお願い致します」


「うん! 任せとけ」


「ふっふっふ、ミッションクリアと言うやつだな。報酬としてお前のチームについていくことにするぞグラス」


「ああ、よろしく頼む」




 こうしてトーラス聖堂の闇を祓う、クエストは無事達成することが出来た。パーティには新しく聖女のエルカが加わった。また賑やかになりそうだな。


「エルカの宝珠が壊れちゃったんだけどごめんね」


 グレイに対し力を発動できたものの、宝珠は壊れてしまった。何回使っても壊れない解魔石の凄さを実感させられる。


「ああ気にしなくていいよ。あげたやつだし」


 しかし本当に宝珠には女神ホルテラ様の力が宿ってたんだな。あのエネルギーは神の魔力に違いないし、だから力を発動できたと言える。 


「そういえばリルさんは何で女神像を盗もうとしたんだ」


「ああそれはあいつが、ホルテラ様オタクだからだ、常日頃あの銅像が欲しいとかぬかしてたから、私が頑なに却下してたんだ。それを奴はこそこそと、我慢の限界だったようで、仕方のない奴だな」


 しょうもない理由だな!


 トーラス聖堂の闇出現の真相はリルさんの意外な事実判明と共に全て明らかになったのだった。






 エルカを仲間に引き入れた後日、ギルド《オルトレール》で僕達はいつも通り依頼を探していた。


「おいレピティ!腹が減ったぞ」


「待って下さいエルカ様、まだご主人様が来ていないです」


「クソあやつ、どこで何をしておるんだあああ!」


「しっお前あっちの方まで叫び声が聞こえていたぞ」


「グラスが遅すぎるんだ。お腹がすいてしまったよ」


「分かった、分かった」


「なんだ、なんだ、連れが増えたと思ったら、騒がしいのが入ってきたな。グラスさん頑張ってくれよー。ハハハハハハ!」


 周囲の目が刺さるよ……。特にギルドの中の酒場の店主が僕達によく絡んできてよく話しかけてくる。


「いやあ、そんな全然大丈夫ですよ……」


 パーティに加入したエルカはあっという間に、ギルド内に名が広まることになった。そりゃあまあこれだけ声が大きかったら誰でも気になるだろなあ。


「グラス君、無事仲間を増やしたのね」


「セイラさん! おかげ様でまあ賑やかなことに」


「ええとエルカさん? 受付のセイラです宜しく」


「うん、よろしくね」


「そうそう、ちょっとグラス君に伝えたいことがあるのだけど、エイマが呼んでたわよ。何やら例の件で進展があったみたいなの」


「なんと! 直ぐに向かいます」





 今も変わらずエイマさんはギルドの執務室に籠っている。なのでエイマさんに呼ばれて先ず反射的に向かうのが執務室で早速部屋の中に僕が入るとエイマさんがいて話すことになった。


「してグラス、シュレッタ王国の異変の原因が分かったのだが、恐れていた事態が発生してしまったようだ」


「それは、どういう……」


「魔王軍と王国が本格的に戦いを始めるらしい」

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