第11話 騒乱~レネ(追放)サイド~
シュレッタ王国王の間では、現在シュレッタ王もとい父上が魔王軍襲来に備えて奮闘している最中だ。
「まず戦力についてだが基本的にハイフレードで事足りる、レネ達は後衛で援護に徹するように」
「かしこまりました」
魔王軍侵攻を察知した父上は私たち選抜冒険者3人に迎撃任務を与えた。主に内容はハイフレード様の援護のようだが……。
「魔王軍ねえ、全く実感が湧かないけど大したことないんじゃないのか」
「油断は禁物ですレジンさん、とは言えハイフレード様がいるので楽勝だとは思います」
「そうだレジン、先ずお前は雑魚敵にやられない様に用心しろ」
「なんだとコラあ!」
はぁ、レジンさんとシステラさんは相変わらず騒がしいですね。しかし魔王軍の襲来……ハイフレード様が居れば些細な問題としか思えませんが、妙に胸騒ぎがします。
「お、あれはハイフレードさんじゃないか、おーい!」
黒い髪に紅蓮の瞳、あれは愛しのハイフレード様だ。グラスの奴を葬った時もお見事でしたが、あれから久しぶりに出会えて私の気持ちは満たされた。
「やあ、レジン、レネ、システラ、3人共元気にしてたかい?」
ハイフレード様、いつにもまして素晴らしい風格ですわ……。
「いやー久しぶりですね。魔王軍なんて軽くひねってやってくださいよ」
「任せてくれ、3人共援護は頼むよ」
「勿論です」
ハイフレード様の援護なんて、凄く光栄なこと。絶対お役に立たなければなりませんわ。万が一にでもミスは許されないことです。
「――先ず作戦の段取りでも決めましょうか」
「ああ、分かったよ。ん? あれは偵察に出た伝令兵じゃないか」
伝令兵……凄く嫌な予感がしますね。
「伝令です。直ぐに城門前に来てください。魔王軍が襲来しました!」
「っ!急いで城門へ行きましょう」
やっぱり悪い予感があたった。先手も打たれてしまったか……。
シュレッタ王国の王城に立ち入る際には巨大な城門をまず最初に通過しなくてはならない。普段なら検閲兵によって硬いセキュリティを誇っているが、相手が魔王軍となればそうもいかない事態である。
「魔王様に平伏せよ、私は魔王軍幹部にして闇の欠片の一人、ゲオルガーだ! 遂に魔王様復活の時は近い、その前に貴様らは我が軍門に下るがいい!」
「やれやれ困ったね。ざっと3000はいるよ。どこから湧いて出たんだか」
「先ず兵士を突入させて、牽制しますか」
「いや、その必要はないよ。あれくらい僕一人で十分さ」
ハイフレード様の自信に満ち溢れた表情、これは明らかにハッタリではない。ならば私はその意志に準じて行動に移すまで。
「了解致しました! 兵士たちは後衛で王城の防衛を、レジンとシステラさんは遠距離攻撃でハイフレード様の援護をしてください」
「かしこまりましたレネ様!」
「やれやれ、それじゃひと暴れしに行きますかね」
ハイフレード様は城門から飛び降りると、数千もの魔王軍と1人で対峙する。
「君達の話を聞くつもりはないけど、何か言いたいことがあれば言ってみるといいよ」
「黙れ! 貴様らと対話するつもりはない」
「そうか分かった、じゃあお別れだ」
「スパっ」
「なっ……」
その時ハイフレード様に対峙した一体の魔王軍兵の首が目に見えぬ剣閃によって切られた。
「う、うわあああああ化け物めえ! お前ら一斉に掛かれええ!」
「お、やる気になったみたいだね」
1人がやられたことを合図に遂に魔王軍との戦闘が本格的に始まったのである。
「す、凄い……」
戦況は気が付けば王国軍の圧勝と呼べるものとなった。目の前の光景を見てこの場にいたものは誰しもが思ったことだろう。ハイフレード様のその実力の異次元さを。
「うーん、弱い者いじめになってないかこれ」
「ふ、ふざけるな貴様! 雑魚を倒したくらいでいい気になりやがって。このゲオルガー様の衝撃破で消し飛ばしてくれるわ」
残るは魔王軍幹部1人、名前はゲオルガーと言いましたか。いったいどんな魔法を使ってくるのでしょう。ここは念には念を入れますか。
「ハイフレード様! 私が今から防御魔法を張ります。またシステラさんとレジンさんは遠距離からゲオルガーの迎撃をお願いします」
「全然大丈夫そうだけど、援護は助かるねえ。3人共よろしく」
「了解した。雷連携魔法で援護行くぞシステラ! 《サンダーブレイク》」
「なんでお前が先行するんだ。気に食わないがまあ今回は特別に見逃してやる。《サンダースラッシュ》」
「バリバリバリバリ! ドオオオオン!」
無事直撃したようですね。2人の雷攻撃の連携技の威力は王国トップクラス、普通の敵ならここで終わりですが、相手は魔王軍幹部ですからどうなりますかね。
「な……嘘だろ、あいつ全然効いてねえぜ」
「ば、馬鹿な」
「今なんかしたか? 雑魚どもは引っ込んでろ。バッ!」
ゲオルガーの衝撃破、これに当たったら確実にまずい
「システラさん、レジンさん! 危な……嘘ッ!」
危ないと言い切る前に既に衝撃破で倒れていたレジンさんとシステラさんの2人。その時かつてない恐怖感に私は襲われた。
「こ、こんなことが……」
「ハッハッハ、雑魚どもが図に乗るからそうなる。次はお前だ」
まずい次は私の元に衝撃破が飛んでくる。こんなの速すぎて防ぎきれるわけない。
「いやいや、図に乗ってるのは君の方でしょ?」
何が起きたのだろう。確かにハイフレード様はゲオルガーの正面にいたはずで、ひと時もゲオルガーは警戒を解いていなかった。しかし今はハイフレード様が背後を取っている。
「な、なんだといつの間に背後を。まさかその動きは……ぐはっ」
「王国の選抜冒険者をケガさせた罪は重いぞ? 今回は遠慮無しだ。その命で代償を支払ってもらう」
その時ハイフレード様の剣が凄まじい衝撃を放ちだした。周囲が真っ暗になるくらいの煙塵が巻き起こり、それが消えると共にゲオルガー含め魔王軍残存勢力の姿は消し去られていた。
「ハイフレード様流石です……ハイフレード様?」
煙塵が晴れていくのは少しずつだ。そんな中今ハイフレード様の1番近くにいて視認できているのは私だけ、だからここの光景は今兵士達には見えず、レジンさんとシステラさんは倒れたままである。
そんな中私はハイフレード様が返り血にまみれて、怪しげな笑みを浮かべて立ち尽くしている姿を目撃した。
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