第9話 闇を祓う

時間が経過して夕暮れ時になる、聖堂の闇が出現するとされる時間帯が訪れた。


「さあて、そろそろ行きますかね」


「準備はできたか、闇はかなり厄介な敵だから気を付けるんだぞ」


 日が沈み真っ暗となった聖堂はどこか異様な雰囲気を放っている。


「ふふふ、なんだか緊張して来たな、思えば闇出現以来、夜に聖堂に立ち寄ったことはなかった」


「エルカ大丈夫か、怖かったら僕の後ろで待機しててもいいんだぞ」


「ふざけるな! そんなことをしたら聖女の名が廃るわ」


「だ、そうだ、レピティ入れてやらなくていいぞ」

 

「な、なんだそれは」


「光の防御結界、闇ってことで万が一に備えて僕の前方に張り巡らせてあるんだ。後は暗さを解消するライトの代わりにもなっていたりする」


 ちなみに解魔石の出力があってこそできた技である。


「片時もご主人様の元を離れられませんね」


「まあ僕の後ろにいれば安全ってことよ」


 エルカの羨ましそうな目線が刺さる……。


「ま、まあ光の防御結界なんて、私でも出来るし?結界発動! ……あれ」


 エルカの前方には確かに結界が出現したが、直ぐに消えてしまった。


「やはり、高濃度の闇の力の影響がここまでにも及んできているな、光の魔力はここでは消えてしまうはずなんだが……グラスの結界は何で消えないんだ」


「なんでかなあ、たぶん元の出力の違いとか」


「格の違いとかですかね」


 うわレピティ辛辣だな…


「悔しいいいい! もう一度だ、結界発動…………発動発動発動発動発動!」


 ありゃりゃ、こりゃダメそうだな…。


「ハァハァハァ……」


「エルカあー、後ろに来るか?」


「…………フン!」


 エルカはその後静かに僕の後ろに着いた。まるで今まで何もなかったことの様に。




「遂にここまで来たか」

 

 気が付けば聖堂の扉の近くまで来ていた。改めてみるとかなりの迫力と大きさを誇る扉である。


「……じゃあ開けるぞ」


 レピティとエルカもかなり静かだな、緊張してるみたい。


「バタッ!」


「うーん、特に何も変化はないみたいだね」


 扉を開いたものの、聖堂の中は前回の時から変化はなかった。


「こんにちは、聖堂までまた来ていただきありがとうございます」


「うわっびっくりしたあ! って誰かと思ったらリルさんじゃないか」

 

 全く気配を感じないことには本当に驚いたぞ。しかしリルさんは夜にこんなところにいて、闇とか警戒しないのだろうか。


「リルだと、お前今までどこに行っていたのだ」


「うん、どういうことだ? リルさんは今日の朝から聖堂の受付をしていたぞ」


「馬鹿いえ、だってリルこそ、女神像を盗み出そうとして失踪した人物だぞ」


「なっ……」


「危ないご主人様!」


 その時背後から凄まじいオーラを感じた。すかさず僕は足を一歩後ろに下げる。


「ちっ躱されたか」


 背後には片手に闇を纏って振りかぶろうとしていたリルさんがいた。


「これはどういう事なんですかリルさん!」


「ふふふ、まだ分からないの? 私こそ今回の聖堂の闇事件の黒幕、シスター・リルよ! いえ、それも偽名だわね」


 リルさんが手を挙げると、周囲の闇が彼女に纏わりつく、そしてみるみるうちに背中から黒い翼が生えて、サキュバスのような見た目になっていた。


「私の名前はグレイ、魔王軍配下であり《闇の欠片》の一つ。今からお前たちを消させてもらう」


「魔王軍? それってやばい奴なんじゃ……しかも《闇の欠片》って何のことだろう。」


「よそ見してんじゃねえ!」


「バリン!」


 グレイの打撃は容易く光の防壁結界を破壊した。


「うわあ結界が!」


「ご主人様援護いたします」


「私も忘れてもらっちゃ困るぞ」


「よし! ひとまずみんなで戦うぞ! 2人とも僕への援護魔法を頼む」


 レピティが身体強化付与を使って、エルカが自然治癒の魔法を使う、これだけでもかなり戦闘が有利に運んでいる気がする。


「クッちょこまかと小癪な真似を」


「まだまだ!」


 支援パフが掛かった僕のスピードについてくるなんて中々の強敵だ。


「仕方ない、そろそろ本腰を入れさせてもらうよ」


 解魔石の魔力の分析を始めようとする僕、その時だった。


「高魔力反応検知、それは私が頂く!」


「ドドド!ギャアゥ!」


「ちょっと待っ…!」


 しまった、地面から這い出てきた小さなコウモリに解魔石を奪われてしまった。


「よくやった眷属、これは何か重要なものだったのか?」


「くっ…」


「どうやら図星のようだな、さて締めと行くか」


 な、なんだグレイの構えた両手に高出力の闇が集まっていく。


「これでも食らえ《闇魔法シャドウ》、ランクSクラスの私の必殺技だぞ、お終いだ!」


「おいグラス! あれを食らった流石にヤバそうだぞ。聖魔法も使えんし私にはどうすることも出来ん」


「平気ですエルカ様、ご主人様の力を見くびらないほうがいいですよ」


「……」


 すまないレピティ、期待に応えたいところだが、解魔石がないことにはどうにも……。


「ま……任せてくれ、何とかして見せる。2人は僕の後ろで待機しててくれ」


「了解致しました!」


「だ、大丈夫なのかグラス……」


 ご、ごめん2人とも、今の僕にできることは2人の身代わりになることぐらいしかない……。


「消えろおおお!」


 ここまでなのか…嫌だ、嫌だ、まだ死にたくない


「……!」


 その時エルカがくれた宝珠の光が輝きだし、凄い力が溢れている。


 こ、これは、もしかして行けるかもしれない。


 分析、魔法陣の数値化このイメージで。


「出力!」


 その時凄まじい光が辺りを覆って、聖堂内の闇を全て消し去ったのであった。



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